県公式・兵庫五国連邦プロジェクト

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vol.002【私がここでカバンを作る4つの理由】板倉清月さん(但馬)編

明治時代から始まり、兵庫県の中でも鞄づくりの街として有名な豊岡市。その豊岡市の中でも随一の歴史を持つエンドー鞄のショップ兼工房 《嘉玄》で働く板倉清月さん。東京出身で、一度は都内で鞄業界への就職をしながら、なぜToyooka Kaban Artisan Schoolに入学し、《嘉玄》で働くことを選んだのか、その理由を伺った。

0から作れる環境・豊岡

板倉さんが野球少年だった頃、友人の父がグローブや財布などを手がける革職人で、財布などをもらっていた。その時に感じた「かっこいいな」という想いを持ち続け、板倉さんは高校卒業後に革製品を扱うメーカーへと就職した。そこは有名ブランドの商品も制作する業界でも有名な企業。それだけに役割は細分化されており、製品づくりの全工程に関わることはできなかった。そこで一念発起しToyooka Kaban Artisan School に入学。1年間でひと通りの技術が学べるうえに、鞄づくりに必要な材料費が無料。教材費は有料という学校が多い中、鞄メーカーの協力により無料というのも魅力だった。「実は就職する前から学校は探していて、自分が考えるものづくりというものは、0から1にできる人という想いがずっとあったんです。やっぱり自分でデザインして完成まで仕上げられるようになりたいと思い、思い切ってToyooka Kaban Artisan Schoolを受けることにしました。正直豊岡のことは全然知らなかったのですが、鞄づくりを0から学べて、しかも学費が安いところって他にはありません。だからこの学校で学ぶ人はたくさんサンプルを作ることができ、成長スピードも早いと思います」。鞄づくりを目指すものにはこの上ない環境なのだ。

鞄に集中できる毎日

Toyooka Kaban Artisan Schoolは基本的に水、日が休校日だが、水曜日だけ休みということも多く授業時間は1日8時間みっちり。しかも実際の製品づくりと同じスピード間での作業を求められる。さらに完成品にはベテラン職人から容赦のない指導が入る。「正直、厳しいと思ったことは何度もあります(笑)。僕はまだ前職の経験があるから大丈夫でしたが、一日中鞄のことを考えないといけないので、鞄が嫌いになる人もいるんじゃないでしょうか。僕も0から鞄を作りたくて入りましたが、企画が思い浮かばなくて苦しいときもありました。でも、余計なことを考える暇もないので、逃げたいと思う余裕もなかったですね(笑)。厳しいけど学費や材料費の安さはもちろん、実践的な力を身に付けられることが、いかに恵まれた環境なのかはみんな分かっていると思います。入学するのも狭き門ですし、この学校を選ぶ時点で、覚悟みたいなものはあると思いますよ」。車が生活に不可欠なことや厳しい寒暖差もあり、都会と比べると決して便利ではない。しかし技術力を身に付けたい人には、集中できる理想的な環境なのだ。

豊岡で積んだ経験が糧に

とはいえまだ22歳、しかも東京に住んでいた板倉さんにとって、豊岡は物足りなくはなかったのだろうか。「僕はワクワクの方が大きかったですね。実家から早く出たいと思っていたこともありましたし、新しい環境が本当に楽しみでした。でも終電は22時台でしたし、電車や自転車で移動できる場所もかなり限られるので、車を買うまでは不便だったのも事実。でも、車を買うという経験も豊岡に来たから早くできたことです。夜は東京よりも灯が少なくて静かですが、僕はそれが気に入っています。車と言えば、運転していてイノシシやシカが出てくることもあります。もしぶつかったらとヒヤヒヤしますが、東京に居たら考えもしなかったことだと思います。それとお手伝いで選挙カーの運転をする機会がありましたが、政治を身近に感じられる良い経験でしたし、それをきっかけに政治にも興味を持てました。東京に住んでいたら、政治には無関心なままだったかもしれません。いろいろなことを自分ごとと捉えて生きることにも、楽しさを感じています」

繋がり・変化する夢

東京から知り合いがほとんどいない豊岡に移住した板倉さん。だが話を聞いている表情からは不安や寂しさはほとんど感じられない。初めての土地での不安や、仕事での苦労はなかったのだろうか。聞いてみると東京時代よりも濃い人と人の繋がり、初対面の人からも受ける優しさ、そしてそこで見つけた将来への夢が、不安を希望へと転換させていた。「学校に通っていた頃、何となく行きつけを作りたいなというきっかけで通い始めた《とど兵》さんというカフェがあるんです。そこでお店の人と話すようになって、豊岡での生活が一変していきました。一緒にご飯を食べに行くようになったり、いろいろな方を紹介していただいたりしました。とど兵で知り合った《58N》という、テイクアウトのおにぎりと雑貨を販売しているお店では、学校の卒業制作としてショップバッグを作らせていただきました。このショップバッグは、米袋を再利用したもの。そもそも《58N》さんは「コウノトリ育むお米」というお米を使ったおにぎりを提供されています。絶滅の危機にあったコウノトリと共生するために、自然農法でつくるお米です。そんなストーリーのある米袋でバッグを作ることにもテンションが上がりました。また、とど兵さんには自分のブランドであるmagireru(まぎれる)を置いてもらえることになったり、本当に人との繋がりが僕の世界を広げてくれています。きっと東京にいたらここまで物事が進んでいなくて、豊岡だからこそできたことではないかと感じています」。

そんな豊岡で過ごすようになって、板倉さんの夢にも変化が起きた。「最初は0から作りたくてこの環境に飛び込みましたが、今では自分が作らなくてもいいとさえ思っています。そう考えるようになったのはエンドー鞄の嘉玄というショップ兼工房の店頭に立つようになってからです。周囲には僕より上手な職人さんはたくさんいる。僕が作らなくても最終的に、お客様が満足できるものを提供できればいいんだ、と思ったんです。作ることへの挫折ではないですが、僕が活きる場所はどこなのかを考えて、今はそう思うようになりました」。
作ることだけに固執せず、柔軟に目標を変化させていく。豊岡でさまざまな人と触れることで、板倉さん自身も変化していったに違いない。

今回紹介したお店

エンドー鞄 ショップ兼工房 「嘉玄」

〒668-0026 兵庫県豊岡市元町2-5
営業時間:10:00~17:30 定休日:水曜日
電話番号:0796-24-0039

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