vol.010 株式會社Daft 的場慎一 「完全に倒れなければ、またチャレンジできる」
取材日 2020年8月12日 /取材 兵庫県広報専門員 清水奈緒美
以前、「Beer Cafe Barley」の服部さんにお話を伺いました。コロナ禍の大変な時、「少しでもお店の運転資金になれば」と服部さんが利用したのが、「ハロトコ」というサービスです。今回、その「ハロトコ」を運営している(株)Daftの的場さんにお話を聞きました。
ちょうど、事業をスタートさせた時だった…
2019年2月に創業した(株)Daft。広告事業を手がける会社として的場さんが起業しました。約1年かけて広告事業をテスト運用し、翌年20年2月に正式に稼働させた時、今回のコロナが起こりました。
的場 ようやくというタイミングでした。順調なスタートを切ったところだったんですが…。リーマンショックや不景気の時も、企業の広告費は削られるんですが、今回も、広告市場は劇的にしぼみました。
清水 そうなんですね。その手がけていた広告事業は、どういうものなんですか。
的場 飲食店の壁や屋外の看板、自動販売機など、人の目に留まる場所を広告枠として弊社で集めて、広告を出したい人へ提供するという事業です。「こういう飲食店にはこんな人が」「このスペースにはこんなことに興味のある人が来やすい」といった様に、場所ごとに集まりやすい人の属性を分析して、広告の効果を上げるんです。
清水 へぇ、「ここは広告になる」っていう場所を見つけていくんですか。
的場 そうですね。広告市場のなかでも、Webなどのデジタル広告より、自分たちのような非デジタル広告はさらに縮小されるので、3月に一旦、事業は停止しました。で、何ができるか考えた時に、もともと飲食店とのつながりも多かったので、自分たちの顧客基盤を生かせて、かつ、「今、飲食店にためにできることを」と「ハロトコ」を始めました。
ハロトコの対象は、通販に参入しづらい事業者
4月7日、国の緊急事態宣言が発令。兵庫県もそれに従い、飲食店の営業時間は20時までに。外出制限や夜間の営業自粛により、売り上げの減少したお店が増加しました。「ハロトコ」の仕組みは、こうです。飲食店などの事業者が「ハロコト」のウェブサイトで食事券や回数券などのチケットを販売し、利用者がそれを購入するというもの。「ハロトコ」のネーミングは、“今は行けないけど、あとで行くね。お金、はろとこ(払っておこう)”というところから。
「ハロトコ」のウェブサイト。お店の一覧が表示される。
的場 「ハロトコ」は、4月22日にリリースしたんですが、事業の仕組みを考えてから、1週間から10日くらいでシステムを構築しました。急ピッチだったんですが、うちのエンジニアが本当にがんばってくれました。
清水 どういうお店が参加しているんですか。
的場 飲食店から、カフェ、ベーカリー、小売店、クルーズ船、ホテルなどです。150以上のお店があります。コロナ以降、通販事業がのびているんですけど、通販に対応できないお店もあるので、そういった事業者向けのサービスになります。自分たちは、スモールビジネルと言われる分野でビジネス展開をしてきたので、そこの軸足はぶらさずに。
清水 なるほど。ページを見たところ、神戸市内のお店が多いですが。
的場 エリアは特に制限していないんですが、積極的にプロモーションしているのが神戸市内です。エリアを広げて、お店を点在させるより、ある程度範囲をしぼって、お客さんから見ると「たくさんの中から選べる」とう状態にした方がいいんです。新しいサービスなので、お店の方もお客さんの方も集めないといけないので、手間はかかりますね(笑)。
清水 参加している事業者からは、どんな声がありますか。
的場 「『どうぞ、お店に来てください』と言えない状況だったので、売り上げがあって助かった」「キャッシュフローをまわすことができた」と言っていただきました。
清水 ちなみに、的場さんは、何か買われたりしました?
的場 僕は、カレー屋さんのチケットを買ったり、もうすでにクルーズ船の利用券を使ったりしました。よかったですよ。「ハロトコでお店を知って、使ってみました」というお客さんや、「客層が少し広がった」というお店もあるようです。
清水 いいことだらけに感じますけど、お店にとって負担はないんですか。
的場 お客さんの支払った額の5%が手数料としてかかるのがありますね。
清水 ハロトコをやってみて、気づいたことは、ありますか。
的場 全部は言えないですけど、めちゃくちゃあります。「明日、あさって、どうなる?」「営業できるの?」という状況では、お店の方たちも意思決定しづらそうだったり、いろいろ気づきはありました。
大学時代から、起業の道1本で
母親が会社を経営していたこともあり、自然と起業を意識していた的場さんは、大学時代、東京でスタートアップ(比較的新しいビジネスで急成長し、市場開拓フェーズにある企業や事業)企業へインターン。そのまま、就職しました。
的場 今の世の中、何かをやろうと思えば、個人の学歴、生まれ、職歴、出身国とかによっても壁があるので、そこをどうにかできないかという思いはずっとあります。壁を超えるために、教育や転職、起業があるんですけど。
清水 確かに、目には見えないけど、境目ってあるんでしょうね。
的場 僕がビジネスとして着目したのが、広告市場です。広告市場も、やっぱり、お金があればあるほど、効果が高くなる傾向にあるんです。例えば、Webでは、高いお金を払った人が、検索の上位にあがってくる。顧客獲得のために、企業は1クリックあたりに800円くらいかけていることもあるんです。事業主の声の届かないところに届けるのが広告なんですが、それをどう攻略していくのかが、広告ビジネスのおもしろさです。
清水 一旦、広告事業は停止されましたが、これからの展開は、どう考えておられますか。
的場 ハロトコはしばらく継続していきます。また、スタートアップの分野で、よく「ゲームチェンジ」っていう表現をするんですけど、コロナの前と後とでは、いろいろな変化が起こっているんですね。良くも悪くも、そこにビジネスチャンスがあって、急に立ち上がる市場もあるので。いくつか、すでに仕込んでテストしているビジネスもあります。
清水 へぇ、早い!敏感に世の中を見てないと、そのチャンスは見えないんでしょうね。
的場 そうです。なので、けっこう、まちの人の動きをよく見ていて、「人通りは増えてきたけど、飲食店に入る人はまだ少ないな。じゃぁ、空いている時間は何しているんだろう」とか。
清水 そうやって、見つけていくんですね。
完全に倒れなければ、あと7回くらい登板できます
清水 「ハロトコ」の目指すところは、どういうところですか。
的場 僕は、公的な機関が事業者の支援をし続けていくのは、むずかしいんじゃないかなと思っています。税金にも限りがありますし、資金が事業者に渡るまでにも承認フローがあって時間がかかったりしまよね。ハロトコで、3~4日で40~50万円売り上げるお店もあったんですけど、それって、助成金や補助金のスピード感じゃありえないので。
清水 はい。
的場 お店のファンの方たちがお店を応援しようと、それだけのお金が集まっているわけなんですが、言ってみれば、セーフティネットにもなっていると思います。スピードが必要なこの時期に、民間でそういうものを形成していけるのは、意味のあることかなと。
清水 なるほど、セーフティネットですか。
的場 ヤバい時に助け合える文化があれば、やり直しはできると思っています。完全に倒れなければ、また再チャレンジできるので。僕ら、スタートアップって、失敗する可能性は高くても、倒産のリスクを回避して生き残って、チャレンジできる回数を減らさないようにするんです。
清水 そういう感覚なんですね。なんか、すごいです。
的場 前職の代表も10数回異なる事業モデルにチャレンジして、上場企業へ売却を果たしました。僕も死なずになんとかするということを考えてます。なので、あと2~3回、コロナのような事態がきてもなんとかします!
清水 今回、的場さんを支えてくれたもの、もしくは、支えてくれた人は?
的場 チーム(従業員)のみんなです。売り上げもガクンときて、一時、危機状態だったんですけど、信じてついてきてくれているので。なんなら、「給与、カットしていいですよ」と言ってくれたりもしてくれました。
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「コロナみたいな大きな転換期があと2~3回来ても、大丈夫」。そんなことを言える人がいるのかと、正直、驚きました。長年、野球を続けていたという的場さんが体育会系の根性だからなのか、若手だからなのか、それとも、起業家はみなさんがこういったマインドの持ち主なのか。確かに、スタートアップを手がける起業家の方と、その分野一筋の飲食店や伝統産業従事者の方たちとは、事情も異なりますし、変化への耐性も異なると思います。でも、「完全に倒れなければ、チャレンジできる」。その気概は、言葉の上澄みをすくうだけでも、力が湧いてくると思うのです。
株式会社Daft
2019年2月創業。代表取締役 的場慎一。
これまでに手がける事業は
・中小企業やスモールビジネス事業者へのマーケティング支援
・広告プラットフォームの運営