県公式・兵庫五国連邦プロジェクト

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vol.013 病院局企画課 戸田泰敬「“通常医療とコロナ”“高度医療と経営収支”。医療のバランスとは」

取材日 2020年12月24日 /取材 兵庫県広報専門員 清水奈緒美

県立加古川医療センターの新型コロナ臨時重症専用病棟がまもなく着工します。病棟の完成によって、単純に“病床数が増える”というものではありませんが、期待できることは何なのか、また、医療人材の確保体制には兵庫特有の病院事情があるらしいことを戸田さんに聞きました。


“新型コロナに特化”&“通常医療の病床を確保”

現在、新型コロナ患者を受け入れる病院は県内に数十ありますが、なかでも、重症患者用の病床を多く確保しているのが、県立加古川医療センター(拠点病院)と、県立尼崎総合医療センター・神戸市立医療センター中央市民病院(どちらも重症者等特定病院)の3つ。中央市民病院では、11月にすでにコロナ患者用の臨時病棟が開設されています。県立病院に臨時病棟を作るという議論は以前からあったそうですが、秋以降、感染が再拡大するなかで方針がまとまり、来年3月の完成を目指して、今、急ピッチで準備がすすめられています。

新病棟の利点のひとつは、“新型コロナに特化した設備である”とのこと。「従来であれば、院内の限られた空間内でゾーニング(区画分離)を行ったり、患者さんや医療スタッフの動線を決めたりするので運用しにくい部分がありますが、臨時病棟は新型コロナ専用なので、『防護服はここで着ます、脱ぎます』とか『誰がどういう順路で防護服を廃棄しに行きます』というところまで考えた設計にできるので、そこは利点です」と戸田さん。確かに、院内感染は深刻なだけに、感染対策が徹底できる造りになるのは心強い。

そして、もうひとつが、“通常医療の病床が確保できる”という点。臨時病棟では重症病床12床が用意される予定だが、本館のコロナ用の重症病床が移る形となるので、コロナ患者用のベッド数自体は変わりません。「加古川医療センターは、新型コロナの拠点病院ですので、ICU(集中治療室)、HCU(高度治療室)もコロナ患者さんのために確保しています。逆に言うと、ICUなどにコロナ患者さんがいれば、通常の患者さんの受け入れができなくなるので、この臨時病棟の稼働によって、本館で通常の重症患者さんを診ることができるようになるんです」。

緊張感が続いているからこそ、少しでも働きやすさにつながれば

先月下旬から、1週間に半分くらいは加古川医療センターに出向いているという戸田さん。「一言で言えば、調整をしています。お医者さん、看護師さん、放射線技師、薬剤師、管理栄養士…みなさんの意見を聞いて、『病室はこの大きさにしましょうか』『透析装置やECMO設備がどのくらい必要か』とか、取りまとめたことを建設業者さんと調整しています。今は『24時間遠隔で見守れるモニター設備はどのようなものが必要か』とか、内部設備を決めていっている状態です」と説明します。戸田さんは、治療のただ中を直接見ているわけではないが、センター内の緊張感を感じると言います。「やっぱり、空気がちがいます。『自分なんかが入っていいんだろうか』というぴりぴりとした空気。建設の打ち合わせ中も、コロナ対応かどうかは分かりませんが、PHSが鳴って、みなさん頻繁に現場へ出て行かれるので、“命と隣合わせだ”ということ、“医療現場で働く”ということを感じ取ります」。

私の知人の医療従事者のなかには、「会食禁止」といった、自治体が出す自粛要請よりさらに厳しい方針を会社から出されている方もいます。“緊張感のなかで職を全うしている医療従事者のみなさんこそ気分転換を”と思ってしまいますが、なかなかそうはいかない。戸田さんも「コロナ対応も1年近くになってきて、コロナ患者さんと接する緊張感は、本当に大変なものだろうなと思います。病棟の環境や設備の打ち合わせのなかで、『県立病院は県民の命を守る最後の砦、最後まで患者さんを救う』というみなさんの使命感はひしひしと感じるので、臨時病棟とはいえ、新しい環境が少しでも働きやすいものになればと思います」と、医療従事者への思いを語ります。

全国3位の県立病院の多さ。そのメリット、デメリット。

新型コロナ患者用の病床や病棟を確保する際、同時に「医療スタッフをどう確保するのか」も課題となります。臨時病棟では、「13ある県立病院中心にマンパワーを集める」とのこと。これまでのコロナ禍でも、マンパワーが一時的に足りない病院があれば、県立病院間で補ってきました。よって、病棟完成後はすぐに運用できる見込みです。何ごともなく人材確保ができているように思うが、そこには、県立病院の多さと多様さという兵庫ならではの背景もあるようです。
「兵庫県って、県立病院の病床数が約4,000床、病院数は13と、東京都、岩手県に次いで全国3位の多さなんです。他府県を見ると、県立病院はがんや小児などの専門病院だけというところもありますが、兵庫県は専門病院と総合病院の両方があって、この数になっています」と戸田さん。それには、やはり「県土の広さ」が関係しているそうです。県が大きいと、高度医療や救急医療を受けるにも、移動時間が壁となるケースが出てくるので、医療県域ごとに拠点となる総合病院が必要だったとのこと。

一方で「大きな病院の数は多いほどいいのか」というと、そう単純な話ではなく、常に「経営収支とのバランス」が議論の的となります。病院構造改革を主に担当している戸田さんによると、「『より高度で専門的な医療を提供しつつ、地域医療の中心的な役割を担う』という県立病院としての使命はあるが、『赤字を出し続けても、より高度で専門的な医療を提供していく』のか『経営収支のバランスを取っていく』のか。常にせめぎ合いです」と公営企業の苦悩を話します。

「要」「不要」の議論は、少なからず、その時の状況に影響されることでしょう。時に「充実」と呼ばれていたものが、時に「余剰」と言われてしまうこともあるかもしれない。ただ、兵庫がコロナ禍のマンパワーを県内で補っていることと、県立病院の多い県であることは事実です。

「未曾有は起きる」。そのことは、公営企業のあり方についても今後の重要な要素となるでしょう。


 

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