vol.015 加東健康福祉事務所 濵田圭子「#コロナと戦う最前線にエールを」
取材日 2020年12月26日 /取材 兵庫県広報専門員 清水奈緒美
“新型コロナと戦う最前線”と言えば、どこを思い浮かべますか。病院、検査機関、対策本部?では、毎日のように聞く「濃厚接触者」は、誰がどうやって見つけているのか。陽性となれば患者は公共交通機関を使えないのですが、そうなると、どうやって入院先の病院へ行くのか。それらを担い、日々患者さんと向き合う人たちがいます。保健所のみなさんです。今回、医療機関ともうひとつの最前線=保健所(健康福祉事務所)の保健師である濵田さんに聞きました。
【保健所の主な対応】
主なものだけでざっと以上のとおり。今回の新型コロナや新型インフルの時がそうですが、指定感染症に指定されると、感染症法に基づき、疫学調査や搬送業務など一連の対応を取ることが定められています。
まず行うのが、聞き取り調査
「保健所のコロナ対応」で、まず私が思い浮かぶのが患者さんの行動調査でした。正しくは、疫学調査というらしい。「患者さんにお電話して、症状がいつ現れたか、現症状、既往歴、行動歴などを聞いていきます。発症日を起点として、14日前までの行動調査=どこでかかったかの『感染源調査』、発症日2日前からが『感染可能期間』、発症後この期間の行動歴を聞いていき、濃厚接触者を特定していきます。聞き取りがスムーズな方もいれば、やはり、『陽性だった』ということで頭が真っ白になっている方もいます。そういう場合は、時間をかけたり、時間をおいてから再度聞き直したりということをします」と濵田さん。
患者さんと、周りの接触者と、地域の医療機関と
聞き取りの次に行うのが、濃厚接触者への連絡と、患者が出入りしていた先への調査です。「濃厚接触者にあたる方へのご連絡と、PCR検査の調整をします。感染可能期間に『お仕事や学校へ行っていた、デイサービスや福祉施設を利用していた』ってことがあれば、現場を見せていただいて、現場でのお話から濃厚接触者にあたる人を特定していきます」。なるほど、患者さんから聞き取ったこと以外に抜け出る部分がないか見ていくわけです。
「例えば、学生や生徒さんに患者が出たとなると、同じ学年のみなさんに検査をすることがありますし、今、高齢者施設で患者さんが出ると『出入りする人を広く検査する』というのが県の方針ですので、先回りで検査していきます」と濵田さん。そうなってくると、1ヵ所だけで何十という検査が必要になってきますが、一斉に病院へ駆け込むわけではないのです。「病院は、そういう機能ではありませんし、保健所が検体採取をしています。駐車場のような場所でドライブ・スルー方式の検査をすることもあれば、施設で検体採取をすることもあります。高齢で唾液が出ないという場合は、鼻の奥から検体採取をするんですが、それには、医師免許を持った保健所長が行くこともあります」。そうして採取した検体を検査機関へ運ぶのも保健所の仕事です。
検査をして終わりではない。「患者さんのおられた施設で消毒の指示をしたり、『感染予防には、ここをこうしていったらいいですよ』と現場指導をしたりもします」と濵田さん。さらに。「今日これから、患者さんの出た、ある社会福祉施設へ伺うんですが、責任者の方から『施設の運営を止めるべきか』という相談も来ているので、感染症の観点ではどうなのか、お話をさせてもらったりもします」。
患者さんの入院から退院後まで、さらに、患者さん周辺の感染拡大防止対策、あるいは管内に帰国者がいれば健康観察といった、住民の命と健康を守る業務から、コロナ患者さんの受け入れを医療機関へお願いしたりといった医療体制の整備まで、業務は多岐にわたる。「文書上、一言“検査”とあっても、検査名簿を作ったり、検査結果をおひとりおひとりに連絡したり、それに付随する業務はたくさんありますのでね」と濵田さんは続けます。
入院勧告書や消毒実施措置所など保健所で作成、通知などする書類。
ショックを受けておられる方に保険師としてできること
もし、「濃厚接触者です」と言われたら、まず何を考えるでしょうか。私は、やはり「司会は?取材は?」と、仕事のことでしょう。
「こちらから、『濃厚接触者ですので、検査を』とご連絡しても、『え、なんで?』という反応もありますし、検査を拒否する方もいらっしゃいます。14日間という長い健康観察期間を考えると、みなさん、『仕事が』『収入が』と不安を話されます。ほかにも、『休んだら周りに知られる』とか『検査を受けて陽性となれば家族や職場に迷惑をかけるんじゃないか』という不安もおありです。ともすれば、不安が別のところへの攻撃になったりすることもありますし、そこは寄り添っていかないといけないです」と濵田さんは続けます。
濵田さんの言う“寄り添い”とは。「できるだけ、不安をよく聞き取ることです。不安の理由を聞いて、健康状態を聞いて…。繰り返しお話を聞いて、その方のいろいろな気持ちを知る。そうしていくうちに、“ルールに基づいて感染拡大を予防する”ということを理解して、検査を受けてもらえたり、はじめは拒否的だった方が、反対に『あなたたちも大変ね』と口にされたりすることもありますから」と濵田さん。まさに、そここそ、保健師の領域。普段から、会話を通して相手の暮らしや健康上の困り事をすくい上げているからこそできることでしょう。「第1波より2波3波と、患者さんが増えているので、『患者さんにとって十分な対応ができているか』と考えることもありますが、丁寧に向き合うというのが私たちの基本ですから」と濵田さんは添えます。
市長からの応援も。保健所のチーム体制とは
加東健康福祉事務所の感染症対応部署
県内に保健所は17ヵ所(県の健康福祉事務所が12、市の保健所が5)。加東健康福祉事務所管内では、3月に最初の患者が出て以降、これまで200人弱の陽性者を確認しています。
保健所内は、どんな体制なのでしょうか。「もともと、感染症の対応をする課がありまして、保健師、検査技師、放射線技師、栄養士、事務職員がいます。実働の保健師が3人、管理職保健師とOB保健師、合わせて保健師は5人です。当然、人手は足りないので、所内で応援体制をとっています。疫学調査や指導業務は主に保健師が、その他の業務はすべての職員で対応しています。7月に管内で大きなクラスターが出て、大変な時期があったんですが、管内市町の保健師さんたちから『応援に行ってもいいですよ』って言っていただき、曜日替わりで1~2名の応援に入ってもらいましたね」。
私の身内にも、コロナ対応をしている保健師がおり、休日出勤と家事育児とで疲弊しています。コロナ対応をしている部署なら、どこも同じかもしれないですが、先が見えないなかでの有事の対応に溜まるものもあるでしょう。「やれどもやれどもきりがないですし、『これが一体いつまで続くんだろう』という気持ちはあります。精神的に、みんなギリギリのところでやっているので、ちょっとしたことが職員間のトラブルになることもあります。普段なら隣同士で『あぁだよね』って話ができることも、今はそれを言う時間もないですので」。
また、住民の健康相談窓口でもあり、コロナ患者との窓口でもある保健所がゆえの苦労もあるという。「今、世の中の誰もがストレスのなかで生活しているので、保健所などが不安や不満のはけ口になることもあります。保健所のみなさん、涙を呑んでいる日も、這って職場に来ている日もきっとあると思います」。
さらに、今、世の中が受けている負の要素が、後になって出てくることへの危機感もあるそうです。「近年は減少傾向だった自殺者が、管内でも微増しています。自殺者の数は氷山の一角で、自殺未遂や精神不安も相当あると思います。保健所では精神業務も担当していますので、これからどう出てくるのか、そこへの危機感はあります」。この感染症が収束しても、コロナがもたらしたものと保健所との戦いはすぐには終わらない。
災害時にこそ、専門職の技量が試されるのでは
長きにわたるインタビューの最後、保健師=濵田さんを形成するものは何なのか、聞いてみました。
「今回のような感染症は、“災害”とも言われますよね。そして、災害時にこそ、専門職の技量が試されるんじゃないかと思います。県内の豪雨災害、東日本大震災の被災地で、私も、避難者や車中泊の方の健康状態を調査したりしました。水とか荷物をいっぱい抱えながら。そういった経験から思うのが、現場では自分ですぐに判断しないといけないことがあるということです。災害時、現地の方って、住民も行政も疲弊しますので、その人たちに頼りかからずに、自分で完結させるという判断も必要になりますし。それから、2009年、別の健康福祉事務所にいた時に、新型インフルが発生し、当時も患者の搬送などを行いました。今の新型コロナの仕組みは、新型インフルの時の経験が基になっているもの(24時間コールセンターの設置など)もかなりありますので、その時の兵庫県のノウハウは今に生きていると思います」。
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あらゆる生活下の住民に向き合ってきた経験。あらゆる災害で住民に向き合ってきた経験。なかなか目には見えないが、それら“現場”で培われた経験のひとつひとつが、根のように広く静かに、兵庫を支えているのでしょう。
医療従事者と、そして、保健所。白衣こそ着ていないが、患者さんと併走しながら今、前線で戦っている保健所のみなさんにエールを。