県公式・兵庫五国連邦プロジェクト

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vol.018 神戸常盤大学看護学科 大谷知加さん&川上芽咲さん 「会えない辛さ、知っているから。寄り添える看護師に」

取材日 2021年5月24日 /取材 兵庫県広報専門員 清水奈緒美

感染力の強い新型コロナ変異株の広がりで、それまで感染と重症化リスクが少ないとされていた若年層の感染者が増えています。「マスクをしているからといって、電車内で大声で話していませんか?」「アルコール消毒は手が濡れていたら効果が薄れます」。高校に出向き、感染対策のポイントを伝える大学生がいます。神戸常盤大学看護学科の大谷知加さんと川上芽咲さんです。具体的な感染対策に加えて、学生の先輩として高校生へ共感の気持ちを伝えようとするおふたりの姿に私が覚えたのは、「まぶしさ」でした。


高校で自分が話をする-。
この1年で一番、コロナについて考えました

4月下旬、大型連休を前に、若者向けの感染対策として神戸県民センターが「ストップコロナ・エバンジェリスト[伝道師]プロジェクト」を実施。その一環で、神戸常盤大学4年生の3人(大谷知加さん、川上芽咲さん、磯日菜多さん)が、動画「最近コロナまた増えてきたけどどう思う?」を製作し、後日、県立長田高等学校、神戸鈴蘭台高等学校、私立神戸野田高校へ出向き、感染対策について直接、高校生たちに話しました。

神戸鈴蘭台高校での出前講座。大谷さん、川上さんのお話は後日、校内新聞で発信された。

長田高校では校内放送を通じて、神戸鈴蘭台高校では校内新聞を作る編集部の生徒たちから取材を受ける形で、神戸野田高校では生徒会のメンバーへ話をしました。連日の出前講座を終え、大谷さん、川上さんもほっとしているようです。

清水 3校での講座を終えて今、どうですか?
大谷 高校生に話す前に、「じゃぁ、自分たちの生活で感染対策はどうだろう」って見直す機会になったと思います。見直したうえで、「どんな感染対策のポイント伝えるか」考えることができたなって。長田高校の時は、校内放送でのお話だったので生徒の反応は分からなかったんですけど、他の2校は対面だったので、うなずいてたりしてくれたのを見て、「今の発言は分かってくれたんだな」って、分かったのが良かったです。
川上 コロナが流行して1年経ちましたけど、新型コロナ感染症について今回一番考えました。「積極的に調べよう」って思うことができたのが、自分の一番の変化かなと思います。

対面での講座となった神戸鈴蘭台高校、神戸野田高校の生徒からは、いろいろな質問が出ました。「コロナの恐いところは?」「いつ収束しますか」「高校生だからできる対策はありますか」「どうして日本は、海外と比べてワクチン接種が遅れているんですか」などなど。

清水 高校生の質問を受けて、逆に気づいたことはありますか?私は「案外、知ってないこともあるんだな」と思ったんですけど。
川上 いろいろな質問も、ニュースとかを見ての率直な感想なんだろうなと思いました。私は、「海外からのワクチン提供が遅れている」っていうニュースを聞くと、「そうなんだな」って、見たままに受け止めますけど、高校生は「なんで、日本はワクチンが遅れているんだろう」と、そこにまず疑問を持つんだなと思いました。
清水 なるほどね。
川上 フェイスシールドの効果についての質問も、私たちは看護の勉強で、ある程度の効果は学んではいますけど、「『意味ないんとちゃうか』と思っている人もいる」って知ることができて、来年から医療現場で働く身として、「そもそも、なんでこれをするのか」っていう理由を伝えられるようにしたいと思いました。
清水 やるべきことは知っていても、「なんでやるか」「どうするのが正しいか」っていうのは知らない人もいるんですね。

清水 緊張はしました?
大谷川上 はい、めっちゃ(笑)。
川上 でも、高校生からは“ちょっと大人”に見られたいから、上半身とか、人から見える範囲はあんまり動かさないようにしようとか意識して。
大谷 手ぇ震えるし、来るまではお互い、「緊張するなぁ」って言ったりしてました。

依頼に対する「私に資格があるんだろうか」という不安

清水 動画製作や講座をお願いされた時、どんな気持ちでした?
大谷 「私で大丈夫かな」っていう不安がありました。「人に伝えられるかな」「自分の思っていることが合ってるのか」。その不安は、今もあります。
清水 どこから来る不安なんですかね。
大谷  手洗いもしているけど、「いい加減になっているとこもあるんじゃないか」と思ったり、「自粛がしんどい」と思う時もあったりするので、「自分が伝える立場でいいのか」って。
清水 確かに、誰かから「あなたは感染症対策、合格の資格があります」って言われたわけではないですしね。
川上 私も「毎日、確実に感染対策ができているか」自信を持って言えるかなって。そこが不安でした。日々の生活を振り返ってみたら、「家帰ったらマスクをしないから、家族とのご飯も気をつけなあかんな」と気をつけるポイントが見つかって。
清水 講座でも「家族とのご飯でも正面を避けて座りましょうね」って、言われてましたもんね。
川上 はい。

「高校生活でいろんな対策や我慢をしていることは、実はすごいこと」
その言葉がとってもよかったです

両校での講座で、おふたりが「一番伝えたいこと」と前置きして話したことがありました。

「自分たちの高校生活は友だちと遊べて楽しかったけど、今の高校生は部活を制限して、友だちと遊べなくて我慢されてるから、そこは『がんばってる』と、自分たちでも認めてほしい(大谷)」「制限や対策をしながら生活しているのは当たり前じゃなくて、実はすごいことなんだよって、伝えに来ました(川上)」。

事業の趣旨をくみ取ると“感染対策のポイントを伝える方”に主眼を置きそうなものですが、一番伝えたいことが“対策や自粛への賛辞”だったことに意外な気も。

清水 「何を話すか」、どんな話し合いをしました?
大谷 「通学中、電車のなかで大きい声で話してるのは制服を着てる人だな」とか、そんな風に今の高校生たちの日常を思い浮かべて、出し合っていきました。
清水 高校生の生活とおふたりの生活のなかに、感染の落とし穴がないか考えていったわけですね。
川上 あと、今、ニュースで「若い世代」「若い世代」って言われて、悔しいなっていう気持ちがありました。私たちもそう感じるので、高校生も同じように思ってるんじゃないかなと思って、こういう場で「自分たちも自粛、がんばってるよな」って言いたいと思いました。
清水 お話のなかで、「がんばってると一番伝えたい」と聞いた時に、「なんで、川上さんは、それを一番伝えたいと思ったのかな」と思ったんですけど、「悔しさ」でしたかぁ。
川上 もちろん若い世代が感染してるのも事実なんですけど、それは全体のことで、個人を見ると、私たちは看護実習もあるので、外食はしていないし、朝と夜、体温を測ったりっていうのをやってるのに・・・。高校生も、「部活動を制限」「修学旅行にも行けない」って、十分制限されているのに、「若い人が感染している」としかニュースで聞こえないから、「私たちも毎日、がんばってるよなぁ」て言い合える機会にできたらなぁと思いました。自分たちも「私ら、よくやってるよなぁ」って言い合って、がんばれている部分があるので。

「バイト」「外食」「ライブ」「友達と会う」
コロナ禍でできなかったこと。どう乗り切る?

清水 “大学生”のおふたりに聞きたいんですが、コロナで大学生活にどんな影響がありました?
大谷 友だちと遊べなくなったのが辛かったです。実習中も家と病院・学校の往復で、合間にご飯にもどこにも行けず、そこは辛かったです。あと、病院へ実習に行く身なので、感染リスクを考えるとアルバイトもできなかったです。
川上 あとは、行事。部活動もできなかったし、「歓迎会」とかもなしになって、企画していたこともできず、後輩との関わりも減ったのは辛かったです。
清水 人が集まるって楽しいんですけど、人が集まることからどんどん中止になりましたもんね。

あらゆる制限下をどう乗り切るか。
実際に高校生から、「人は我慢、我慢が続くといつか爆発する。リフレッシュ方法はどうされているか」といった質問があり、大谷さんは「オンラインで友達と話す」「美味しいものを家で食べる」、川上さんは「落ち着いたらユニバに行きたいとか、“コロナ後にやりたいことリスト”を言い合う」と答える場面もありました。

清水 「やりたいことリスト」のアイデア、「すごくいいな」と思って聞いてました。みんな、いろいろ考えて乗り切っているんだなって。
川上 あと、私は、友だちと「この本を読もう」と読む本を決めて、感想を電話やLINEで話し合うとかしました。大学生活って今しかないし、「旅行には行けなくても、何かしたいよな」って考えて、「じゃぁ、同じ本を読むか」ってなって。
清水 でも、「本を読もう」ってなるかなぁ…。
川上 映画という手もあったんですけど、Amazon Primeとかに入ってないと気軽に見られなかったので。で、『星の王子さま』を読みました。
清水 なんで、『星の王子さま』?
川上 私、ディズニープリンセスも好きで、コロナがなければディズニーにも行きたかったんですけど…。で、友人に「『王子さま』っていうタイトルの本があるで」と言われたのもあって、今回読んでみたんですけど、なんか、思っていたプリンセスの話ではなかったです。
清水 (笑)。名作と言われる本なので、プリンセスの話ではないけど、いい本を選ばれましたね。「後で友人と話す」っていう決めごとがあるだけで、読書の時間もひとりの時間じゃないじゃないですか。いいアイデアですね。
大谷 「読書の感想を言い合う」って、全然、思いつかへんかったわ。すごい。
川上 友達が提案してくれたから。
清水 私が今、本やマンガを読むのは、ただ単に、空想の世界に逃げるためですね(笑)。

清水 大谷さんは、どうやってリフレッシュしてますか?
大谷 「友達に話を聞いてもらうのって、本当に大きい」ってコロナでより思いました。「辛いのは自分だけじゃないんだ」って、それでがんばれました。
清水 人に悩みを聞いてもらうのって、いやぁ、大っきいですよね。
大谷 はい。それから、今はライブも行けないんですけど、オンラインのライブを観て元気をもらうこともありました。「ライブに行けなくて悲しいのは自分だけじゃないんだ」とか、アーティストの「今、音楽活動ができないので、自分たちも辛い」っていう言葉が染みるんです。
清水 染みるんですね。
大谷 課題も多くて、本っっ当につぶれそうだったんですけど、そういうのを見て、「次のオンラインライブまでがんばろう」って思えました。

“患者さんの不安”、コロナ禍でよりくっきりと。
最前線=医療機関、保健所で見たこととは

現在、看護大学4年生の大谷さんと川上さん。来年から看護師として働く予定です。同学年のなかには、コロナで実習の受け入れが不可能となり、実習期間の短縮や学内での実習に切り替えざるを得ないケースもあったそうです。おふたりの実習にも期間短縮はあったものの、大谷さんは医療機関へ、川上さんは保健所へ行くことができたとのこと。ただ、実習内容そのものも、従来と同じようにはいかない部分もあったそうです。

清水 実習で、どんなコロナの影響がありましたか。
川上 私は、保健所に実習へ行かせてもらったんですけど、1歳児検診も、本来は会場がいっぱいになるくらいの方が来る集団検診の予定が、感染対策のためのブースを作ったり、個別の検診になったりしました。コロナでなければ、直接、お母さんと子どもに付いて診る実習だったんですが、今回は会場の端で見学して、会場の消毒とかできることをさせてもらって。
清水 そうだったんですね。
川上 去年は「検診自体するかどうか」という議論もあったらしいんですけど、でも、検診をしないと、その後の幼児の発達に何かあってはいけないので、その時の感染状況や環境を見て、「できる範囲でどうやってやるか、毎度考える」って保健所の方も言われてました。
清水 また、保健所というと、コロナ患者さんの行動調査(疫学調査)や入院調整で大変なところですよね。
川上 コロナ対応の電話のやり取りも聞きました。お相手は、「コロナかも」「どうしよう」っていう心理状態なので、言葉をひとつひとつ丁寧に確認しているが印象的でした。「こういうことですよね」って相手のお話を繰り返したり、ただ「病院へ行ってください」って言うんではなくて、「あなたのお家からは、この病院が近いですよ」「かかりつけ医はいますか」とか的確な指示をされたりしていて、「保健師さん、かっこいいな」と思いました。電話の会話の限られた情報から、その方の特徴をつかんで話されていて、すごいなぁと。
清水 保健師さん、ほんとうにすごいですよね。電話をされる方のなかには、「おまえんとこが」っていう感情の人もいるはずなのに、それも落ち着いて受け止めて保健指導に導いていって…。
川上 「ぶれない軸を持つのが専門機関として大事」って言われてました。「自分たちがあやふやなことだと、住民さんも困惑されるから、軸が大事」って。
清水 「もはや実習かな」っていうほど、いろいろ教わってきたんですね。

大谷 私は医療機関での実習でした。退院後の患者さんの生活を考えるうえで、ご家族からの情報も大事なんですが、2年生の実習では、患者さんの家族ともお話ができたのが、今回はご家族の方ともあまり話せず、情報が限られてしまって、自分の思う看護がうまくできなかったように思います。
清水 面会が制限されると、看護にも影響が出てくるんですね。
大谷 患者さんが「家族に会えなくて、さみしい」と言われるのを聞いて、改めて、自分がそういう不安を持ってる患者さんに寄り添いたいなと思いました。
清水 見えないところの、気持ちの部分を理解するっていうのは、今回の出前講座でも、実習でもキーなのかもしれませんね。
大谷 でも、コロナ禍ではない通常の実習だったら、同じように思えてたのかなとも思います。入院中の不安とか、本当ならご家族に話されていたようなことも聞かせてもらったのはあるかもしれません。「検査入院中、体はかなり元気になっているのに、誰とも話すことができないので辛い」とか「何したらいいのか、分からないです」とか言われてました。

高校生へ「制限のある生活を送っている高校生だから分かることもあるんじゃないか」と最後にエールを送った川上さん。これから医療従事者となる両名にとっては、コロナ禍の経験はどんなものだったのでしょうか。

川上 これから、医療従事者として、自分が誰かの感染源にならないよう、感染対策だけではなくって体調管理までしっかりしないといけないと思うし、今、人に会えてないという辛さを知っているからこそ、患者さんに寄り添う看護師になりたいと思います。
大谷 今回、人に何かを話すという機会をいただいて、「どうやったら、伝わるのか」考える力も身に付いたのかなと、ちょっと思っています。実際に働いた時に、世代の異なる患者さんに、伝えないといけないことも出てくるので、そういうことにもつながっていくのかなと。川上さんと同様、コロナで家族に会えないという患者さんの辛い思いも聞いたので、患者さんに寄り添える看護師になりたいと思います。

高校生から出た「いつまでマスク生活は続くのか?」という質問への大谷さんの回答です。

「分かりません。でも、『対策なんて意味ないし』とゆるんだり、マスクを外したりすると自粛も長引くと思います。コツコツやっていったら、この状況を少しでも変えられるって私は信じているので-」。

私は、「まぶしい」と思いました。
仕事柄、感染対策や自粛を呼びかける立場にあるので、この1年、たくさん、たくさん「自粛」という言葉を発っしています。でも、自粛という鎧こそどんどん頑丈になってはいますが、鎧の中では、どこか闘志を失っていたのかもしれません。
「少しでも変えられる」。どうして、そんな言葉が出るのか-。医療現場や入院患者、保健所の深刻さを知っているのもあるでしょう。将来の医療従事者としての責任感もきっとあるでしょう。しかし、多分、それだけではない。「みんなでがんばれば、少しでも変えられる」とただまっすぐに信じている-。そこから、あのまぶしさは来ているのだろうと思います。そうか、信じる者はまぶしいんだな。


 

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