vol.020 (株)木栄 芦田猛「切って、使って、育んで。丹波の製材所として森を守っていく」
取材日 2021年8月20日 /取材 兵庫県広報専門員 清水奈緒美
コロナ禍で“個室”や“仕切られた空間”の価値が高まっています。
株式会社木栄が販売する木製間仕切り「災害用ログモジュール」は、避難所でプライベート空間を確保するためのものとして作られましたが、空間を隔てられる点が感染症対策にもなると着目されています。
一方で、全国の森林の状況を見てみると、管理の行き届いていない森林が、激化する大雨に耐えきれず崩落することも多々起きています。これからの森林管理について、芦田さんと話し合いました。
商品化のきっかけは丹波豪雨でした
清水 間仕切りといっても、ほとんど部屋みたいになるんですね。この間仕切りは、どういう経緯で作られたんですか。
芦田 丹波市で2014年8月に豪雨災害が起こりましたよね。
清水 はい、私も1回、災害ボランティアに来ました。
芦田 その時、避難されていた方の話を聞くと、「1週間とかの短期なら、そんなに思わないけど、避難生活が数ヵ月とか長くなってくると、プライベート空間がどうしてもほしくなってくる」という声がありました。地域活性化について研究されている武庫川女子大学の研究室とも情報交換するなかで、「だったら、材木で、何かプライベート空間を確保する商品を作ろう」と開発したのが、この災害用ログモジュールでした。製品化したのは2019年でしたね。
特長のひとつが、組み立てに金属部品や電気工具などを必要とせず、さらに子どもやご高齢の方でも30分程度で簡単に組み立てられるという点です。
基本のセットは、2部屋1セットとして、価格は7万~15万円ほど。ただし、パネルの横幅も1m、1m50cm、2m…と種類があり、パーツ1枚ごとの購入が可能なので、区画の広さ、高さは自由に設定できる。
清水 材料はこれ、何なんですか。
芦田 丹波のスギです。
清水 もし、自分が避難生活でこの空間を割り当てられたら、すごくありがたいです。木というだけで落ち着く感じがしますよね。
芦田 そうですね。商品化した年に、グッドデザイン賞を受賞したりして、新聞やテレビでも取材していただいたんですが、実際のところ、「普段はどこに置いておくか」が課題になっているようで・・・。
“備蓄”か?“普段は本棚として使う”か?
ストックという課題
芦田 自治体の方とお話すると、有事のために備蓄しておくのにかなりの場所をとるのがネックなんだそうです。
清水 なるほど。避難所の備蓄って、救急資材や食料など、そもそもたくさんの備蓄品があるわけですもんね。
芦田 県には、20セットほど寄贈しまして、三木市の三木総合防災公園に備蓄されていますよ。ある学校さんとお話した時に、「備蓄品として保管するのではなくって、普段は本棚とかとして使って、いざという時に間仕切りとして本来の使い方をするのがいいかもしれない」という意見も出ましたので、そういう方法もいいのかもしれないですね。
清水 なかなか、検討段階なんですね。
芦田 あと、的は外れたんですが、災害時用の間仕切りパーツとしてではなく、大型迷路用の材料として注文いただたり、少し材料の寸法を変えて短くしたものを「好きに組み替えできる家具パーツとして販売したい」と、大阪のインテリアショップから注文いただたりしました。
屋外使用への実証実験を行う
商品化の翌年の2020年、世の中はコロナ禍へ。
芦田 コロナ禍で、避難所の密を避けるためにも、「災害用ログモジュールを屋外で使えないか」と考えまして、壁はこのモジュール、屋根は地元のテント製作会社に依頼して、なるべく安価に、でも耐久性のあるものを試作しました。今、屋外で暴露実験をしているところです。
清水 「おしゃれなテントみたいなのが外にあるなぁ」と思ってました。
芦田 この辺は雪がたくさん降る地域なので、「降雪に耐えられるか」の実験をする予定だったんですが、昨年はあまり積雪がなかったので、大雪の暴露実験はできませんでした。年内に「台風にどれくらい耐えられのか」の実験をして、来年には屋外用のユニットを販売できるようにしたいですね。
清水 そうなってくると、アウトドア用品としても使えたりするんですかね。
芦田 う~ん、キャンプとかグランピングで使うものにしようと思ったら、金具とかも使うといいんでしょうけど、「簡単に組み立てられる」というのが、災害時用には必要なんだと思っています。
コロナ禍で起こった“ウッドショック”。
木材が高騰するも、すぐに伐採できるものではない
アメリカに端を発したウッドショック。コロナ禍で、在宅勤務や外出自粛が広がり、住宅需要が加速。輸出入のコンテナ不足という要因も加わり、世界的に木材の価格が高騰しています。木材供給の多くを輸入材に頼っている日本(国内の木材自給率は37.8%/令和元年度「木材需供表」林野庁)にも影響があり、国内の木材価格も高騰しているとのこと。
とはいっても、「不足しているなら即、木を切れば」とはいかない事情があるそうです。
芦田 昭和56年の創業以来、一貫して兵庫県産のスギ、ヒノキのみを製材してきた会社なんですが、創業の頃はすでに、「安い外材ブーム」でした。周りには「なんで、国産材、ひいているの?」とか言われたりすることもありましたね。
清水 そうなんですね。
芦田 2010年頃に、「公共の建築物とかには国産材を使いましょう」という方針が出て(「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」)、ようやく、世の中の風潮と会社理念が合ってきたかなと。そして、コロナ禍でウッドショックが起きてますが、「じゃぁ、明日、山に入って、木を切って出せるか」っていうと、そういうものでもないんです。作業道作って、機械が入れる道を作っていくのに、時間も費用もかかります。実際のところ、イチから伐採申請して、許可得て・・・ってしてたら、その山を切れるのは半年後とかになります。切り出しやすい山は、もう伐採は済んでいますしね。
森を守るために。
地域で森林管理し続けていける循環を作る
令和元年度「兵庫県林業統計書」によると、兵庫県の森林面積は約60万ha。県土に占める森林の割合は、67%と全国平均レベル。県内でみると、丹波の森林率は、但馬の83%に次いで75%。“丹波の森づくり”構想による、地域主体の里山づくりや、野生動物との共生事業を進めてきた地域です。
清水 丹波というと、森深いというイメージもありますが、製材所は多いんですか。
芦田 以前は市内で70社ほどありましたが、今は少なくなりましたね。10社くらいになったと思います。
清水 それだけ、国産木材の需要が減ったということでしょうか。
芦田 昔は、木を切るという商売が成り立っていましたからね・・・。ですが、木栄の理念は創業当時から変わらず、「山を守る」ということです。今の会長が社長だった頃、「丹波の木は全て買う」っていう勢いでされてましたから(笑)。
清水 へぇ、すごい。
芦田 今は状況もちがいますので、なかなか同じようにはできないですが、地元の木を使う会社が1社だけでもないと、丹波の森を守っていけない。今、大雨災害のニュースで、「流れてきた木が橋に詰まって、川の水が氾濫する」っていう光景をよく見ますけど、単に「豪雨による災害」ということではなくって、森自体が災害に弱くなっていっているんじゃないかとも思うんです。
清水 なるほど。
芦田 昔は、伐採が商売として成り立っていたので、山を管理できていたのが、今は木に価値がなくなっていって、森に人が入らない。手をかけてやらないから木も育たない。
清水 人が入っている森とそうでない森は、ちがいますか。
芦田 光の入り方、風の通り方、一目瞭然でちがいます。手入れされた森は、麓から見ても、尾根まで道が続いて、光も入っていますが、管理されていない山は、入ってすぐそこから昼間でも真っ暗です。木だけ生い茂って光が入らないので草が生えないし、岩もゴロゴロ。光と水が入って、苔が生え、落ち葉が腐葉土になって草木が育っていくんですが、そうではない森には保水力がないんですよね。だから、大雨が降ると、山肌が根こそぎ滑って、川の水をせき止めると。
清水 “自然を大切にする=木を切らない”ではなくって、“森の手入れのために、切って育てて”っていうことをしないといけないんですね。
芦田 そうですね。それから、「森を管理する=整備しました、きれにしました、はい、終わり」となっているところもあるんですが、5年かけて手入れをしても、そのあと10年後にも手入れしないといけないわけですが、「じゃあ、その費用はどうやって捻出するのか」という費用面での課題があります。
県内の森林のうち約93%が個人所有林や共有林で、「森林・林業基本法(第9条)」に「森林の所有者又は森林を使用収益する権原を有する者は(中略)森林の整備及び保全が図られるように努めなければならない」とあるとおり、所有者には森林保全の責任がある。
芦田 森林の管理費を生み出そうと本年度から始めたのが、森林管理者がコテージを運営して収益化するという仕組みです。神戸の防災関係の会社さんと協同してすでに、丹波市内何カ所かで行っているんですが、建設は防災関連企業が行い、コテージの運営などは森林管理者が行う、コテージは企業の福利厚生やテレワークの場所として使用してもらって、その収益を次の森林管理費として蓄えてもらおうというものです。多分、全国でやっていない新しい仕組みなんじゃないかと思います。
清水 なるほど、「予算が出たら整備する」とかだと1回きりだったりするわけですもんね。製材業だけはない、森を守っていくための仕組みづくりとか、1歩進んだこともされているんですね。
芦田 これは、きっと会社がグループ(森林整備/製材/設計施工)だからできることなのかもしれません。川上だけ、つまり、伐採・製材だけで使う先がないと流れない。採って、作って、使うという、川上と川下の両方があるので、いろいろできるのかもしれません。
清水 木材をどうやって使ってもらうか、そこですね。
芦田 昔は、家も2代3代と使える家を建てていましたが、今は「自分の代で1回建てる」という価値観が広まっていますし、会社としても時代に合わせたものづくりをしないといけない。例えば、製材の過程で、流通に乗らない規格の木材が出てきて、それを燃料にしたり、チップにしたりすることもできるんですが、「長いものがだめなら、短いものならできる」と、B材C材の寸法を変えてA材として商品化できたりもする。A材になって単価が上がれば、さらにスギを買うことができるので。そういった循環づくりも大事ですね。
廃校になった神楽小学校を“木育”の場に
木栄の社屋から徒歩数分のところにある旧神楽(しぐら)小学校。現在、木に触れる広場=「FOREST DOORしぐら」として生まれ変わり、木栄が主体となって、さまざまな仕掛けをしているそうです。あれ?ウッド調の看板に、内装もなんだかおしゃれ・・・。
芦田 丹波市の3つの小学校が統合し、神楽小学校が廃校になることになりました。「廃校校舎の利活用」って、会社として経験はなかったんですが、1回説明会に行ってみたら、「木栄さん、やってください」と、とんとん拍子で決まりまして。
清水 すぐ近くですしね。
芦田 それが、2019年の2月で、その年の5月から本格的に始動したんですけど、全く計画していなかったことなので、社員全員で集まって考えまして、「木育」とか、「木に触れてもらう施設」として立ち上げました。地元の方のご協力もあって、さまざまな木材を展示している教室、カフェ、木のおもちゃのミュージアムと増えていっていたところで、コロナが発生して、イベントも昨年からずっとできない状況なので、それは残念です。ログモジュールの暴露実験も、このグラウンドでしています。
清水 芦田さんは、丹波市の方ですか。
芦田 そうです、旧氷上町出身です。木栄に入社して、来年で30年になりますね、早いような長いような。
清水 私も田舎育ち(香美町)ですけど、裏山で遊んでた人間からすると、当たり前にあるものですが、やっぱり木っていいなと思います。
芦田 自分たちも、子どもの頃は、遊びに行くっていうと、「グランドで野球する」か「山に行くか」っていう時代だったので、小学校高学年くらいまでは、山で遊んでいたんですが、今、山に入って遊ぶ子どもはいないですよね。
清水 はい。
芦田 FOREST DOORの木育もそこにあって、自分たちが子どもの頃は、小枝とカッターで何かして遊んでましたが、今は田舎でもそんな遊びする子どもはいないですし、都会ならなおさらだと思うんですよ。「木ってどこにあるの?」って聞いても「どこか山にあるんじゃない?!」という感覚でしょうし、大きさとか知らないんじゃないですかね。
清水 「切ってすぐは木材として使えない」とかも知らないでしょうね。最近、ヒノキのまな板を使っているんですけど、カビたりすることはあっても、それを差し引いても抗菌効果とか、天然のものの良さは有り余ると思っています。畳とか木ってそうですよね。その良さを知らないのは、少しかわいそうだなと思ったりします。
芦田 そうですね。なので、まずは木に触れてもらいたいなと。FOREST DOORに木の遊びのスペースがあって、子どもたち、満足した顔で帰ってくれるので、それだけでもうれしいんですが、「将来、木の家を・・・」とまではいかなくても、「机を木製で」とか「椅子を木で作ろう」とか思ってくれたらいいなと思いますし、もしその時に、誰かひとりでも「丹波の木を使いたい」という発想になってもらえたらと思います。
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ありがたいことに、神戸に住んでいると常に山を近くに感じる一方で、「では、山は誰が管理しているのか」を考えたことがありませんでした。生物多様性のある山、そして、災害に強い山にしていくためには人が入り、管理をし続けていかなくてはいかない-。コロナ禍でまた別の価値を持った製材所発信の取り組みが、丹波市から各地へ広がってほしいと思います。
そして、いち消費者として。食品、製品、資材。国産のもの、天然のものの方が高価格だという不思議な世の中ですが、“買うこと、選ぶことは、消費であると同時に、意思表示でもある”と言われています。「ひとりくらいの行動では変わらない」と思うのか、「ひとりひとりの積み重ねで変わっていくものだ」と信じるのか。
丹波の木材1本の先には、丹波の山の未来がある。その連鎖を覚えておくことから始めたい。
株式会社木栄
創業1973年 製材業・建築資材販売・建築業・不動産業・山林事業
会社HP https://www.mokuei.co.jp/災害用ログモジュールの暴露・実証実験には、「ポストコロナ社会の具体化に向けた補助事業(兵庫県)」が活用されています。