県公式・兵庫五国連邦プロジェクト

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Vol.04 森山 未來さんのやさい食堂 堀江座(神戸市)

ふるさとは、遠きにありて、思ふもの。……胃袋が。

兵庫県を離れて活躍される方(の胃袋)を、いまだ惹きつけてやまない、故郷の思い出の味を教えていただく「ただいまグルメ」 です。

文章:湯川カナ/兵庫県広報官 )

今回のゲストは、森山未來さん。
「森山未來」という名前を聞いたことがないひとはいないだろう。では、「森山未來」を、どう説明したらいいのだろう? おそらく、語るひとそれぞれで、異なるのではないだろうか。

・『モテキ』とか『WATER BOYS』とか、最近では『いだてん〜東京オリムピック噺〜』とか、テレビでよく見る俳優さんだよね? 独特の存在感がある。

・森山未來といえば、『苦役列車』で主人公と同じ境遇を体感するために3畳一間のアパートに住んだとか、日本とカザフスタン合作映画『オルジャスの白い馬』で全編カザフ語で演じるとか、やっぱり映画作品での役者魂が、本当にすごい!

・ダンサーとして世界的に活躍してるんだよね。文化庁の使節とかでイスラエルのダンスカンパニーにもいたし、Eテレの『オドモのがたり』とかも、ありえないくらいのクオリティだから。

・いやいや舞台、見たことある? 「劇団☆新感線」の舞台もすごかったし、朗読劇も圧倒的。舞台上の森山未來には、本当に「実存」というのが……。

ひょっとしたらひとの数だけある「森山未來像」。かなり無理してまとめると、「世界を舞台に活躍する表現者」、ということになるだろうか。

そんな森山未來さん、実は兵庫県の出身なのです。

山か海か、せいちゃんのところしかない。

コロナ対策もあり、今回は、Zoomでのインタビュー。こちら兵庫県では、神戸市元町「やさい食堂 堀江座」さんのテラス席にスタンバイ。森山さんは約20年前、ここが「ルーシー」という名前だった時代から通っているそう。

店主の堀江さんと一緒にのぞいたPCの画面の向こうに、ご自宅の壁を背に森山さんが登場……と思ったら、いきなり白い大きな皿を左手に取られるや、銀のスプーンで、中身をすごい勢いでバクバクと食べられ始めました。
「えー? カレー食べてるやーん!」 ニコニコと大声で伝える堀江さん。
「わ、これ、甘っ」 ぶつぶつ言いながら、どんどん食べ進める森山さん。
「え、ひょっとして、この間送ったやつ?」という堀江さんの質問に、森山さんは「当たり前やんか!」と即答すると、まさに破顔一笑!もう堪えきれない、というように硬かった表情を崩し、笑い続けながらカレーを完食されました。

(ちなみにそのカレーは、堀江さんが、コロナ自粛で大変であろう森山さんの奥様のことを考えて、お子様たちも食べられるように柿を入れて甘い味にしていたそうです)

神戸市東灘区で育った森山未來さんが、このお店を初めて訪れたのは、西宮の高校に通われていた頃。友人に「行きたい店、あんねん」と連れて来られたのが始まりだったという。そこから足繁く通う……というか、二階の間でひたすら寝てたり、店主の不在中に上がりこんで留守番もしていたとか。

そんな夏休み、「ちょっと東京に行ってくるわ」としばらく来なくなり、その後戻ってきてからわかったのが、実は映画『世界の中心で、愛をさけぶ』の撮影だったということ。

この映画で日本アカデミー賞やブルーリボン賞を次々と受賞した森山さんは大スターとなり、彼を取り巻く環境も大きく変わってしまう。当たり前のようにテラス席で食べていると写真を撮られる。街を歩くといろんな視線にさらされる。それでも森山さんは、変わらずここに通い続けた。

「神戸には高校までしかいなかったので、飲み屋さんも知らないですし。神戸で仕事仲間と行くとしたら、山か海か、せいちゃんのとこくらい。だから『その場所が、常にそこにある』ことの意味を、すごく感じますね」

ふるさとの神戸に堀江座がある、というより、「堀江座があるから、神戸に帰る」。このお店と「せいちゃん」(※堀江さんのこと)が、森山さんの故郷のようです。

いつも何かしらが変化、露骨に現在進行形。

そんな森山さんの、堀江座での「定番の一品」は?
「とくにないんですよ。しょっちゅう味が変わるしね。ここの味自体が、せいちゃん自身なので」
なんでも、堀江さんが病気でヴィーガン(完全菜食主義)になった際には、野菜出汁のカレー味の味噌汁になっていたこともあったそう。「印象に残ってますね。おー、ここまできたか!? って(笑)」
森山さんは、そうやって堀江さんが、体調や生活やいまならコロナなどの環境にによって変わることを常に新鮮な驚きを感じながら楽しみ、カレーやお店という作品にしていく様子に、いつも刺激を受けていると言います。

「堀江座は変わらずにそこにあるのだけど、常に変わり続けているんですよね。会いに行くと、いつも何かしらが変化して、進み続けている。現在進行形で動いている人って、そんなにいないですから。本来そうあるべきですし、自分もそうありたいと思っているんですけど。だから『露骨に現在進行形』のせいちゃんに、リスペクトがあるんです。……もしも僕が、現在進行形でいられるとしたら、ここで充電させてもらっているからかもしれないですね」

そんな堀江座のカレーは、いつも笑顔。ライスの上には、食べる方が泣きそうなきもちのときにも、昂るきもちのときにも、何かきゅっと原点に戻してくれて、パアッと明るく心をひろげてくれる太陽のような、圧倒的に優しい笑顔が、野菜で描かれている。身体と心がめいっぱい元気になるようにという願いを込められた、いろんな野菜の味が豊かに満ちていて、しみじみ・晴れやかに、美味しい。なんだか希望が湧いてくる、そんなカレーです。(ただしメニューは随時変更)

コロナ以降、日曜日は「起こサンデー」

「変わり続ける」堀江座が、いちばんの変化を余儀なくされたのが、2020年春のコロナだった。緊急事態宣言発令の1週間前、堀江さんは、思い切って、いつもひとであふれていたテーブル席、アーティストのライブが行われていた(そしてかつて高校時代の森山少年が寝ながら過ごした)フリースペースの二階席、すべてをクローズした。

堀江座で築いてきたのは、信頼関係だったはずだ。自分は毎日、「最後の晩餐」のつもりで一皿一皿をつくり、そしてお客さんはここで安心して、大事な時間を過ごす。そんな関係を、コロナが生む「不信」が壊してしまうような気がした。それよりももっと、お互いに楽しめる、新しい方法があるんじゃないかな?

そうだ、いままで「店」はこの店内だけだったけど、これからはこの「店」を世界のキッチンにしてしまおう。客席はこのドアの外すべて、そう、世界中だ! 堀江さんは、店の入り口にショーケースをつくり、自家製ドレッシングやスイーツを並べた。もちろんカレーも持ち帰りできる。

はめ殺しだった窓も開け放ち、Uber Eats専用の受け渡し口にした。配達員さんたちが楽しんでいる。窓越しに、表の明るい光と配達員さんの笑顔が見える。 そして二階は、8歳と4歳のこどもたちと過ごす場所にした。休校期間中、ずっと一緒に過ごした。新しくした看板に、定休日「日曜日:起こサンデー」と書いた。起こさないで、なぜならこの日は「お子さんday」だから。
いつだって「いまできること」を、一心不乱にやっている。 店の入り口を飾るのは、ラブ&ピース&フリーダムのマーク。愛と平和を胸に、 いつでも羽をひろげ、まだ出会ったことのない喜びとの出会いを求めて飛び立つ。それが、「変わり続けるせいちゃん」の堀江座。

もっと自分たちの中の「神戸」を掘り起こすことを考えたい。

森山未來さんは、神戸市の北野に住んでいたこともあるという。異人館があることで有名なエリアで、実際に、周囲にはいろんな国の人々や、ミックスの人々が入り混じっていた。裕福なものと貧しいものも、日本と日本じゃないところも、みんな一緒くた。それは当時の森山さんにとって、「当たり前」だった。

神戸を出て、それが「多様性」だったのだということに気づく。外から語られる神戸には、あまり興味がない。森山さんは、明治時代に神戸が日本一の港であり、それを支える目的で五国が兵庫県になったことなどもお詳しい。だけどそういうことではなく、「神戸の魅力」というのが本当にあるとしたら、「神戸のオリジナリティー」があるとしたら、いったい何が見出せるのか?

「たとえば誰かが決めた『デザイン都市』とか、ある意味陳腐な言葉に寄りかかるのではなく、もっと自分たちの中の「神戸」を掘り起こすことを考えたいですよね」
 
 

森山未來さんは、滞在先のイスラエルで、神戸を思ったことがあった。
「何か、つながりがないかな、と。たとえばイスラエルの領事館って、神戸にしかないんですよね。そして神戸には、寺や神社はもちろんあり、教会もあり、モスクもあって、シナゴーグもある。中華街もある。ある種、世界中の主な宗教がすべて、ひとつの場所に凝縮しているというのは、やっぱりすごいことだなと、その時、単純に思ったんです」

その言葉を聞いた瞬間、私は、以前NHKの番組で見た、森山未來さんがイスラエルで踊っていた姿を思い出した。外国/日本、若さ/老成、硬さ/柔らかさ、滾るような熱/氷のような静けさ……様々な相反するはずの要素が、上半身裸の森山さんの肉体から絶え間なく放たれているような姿。
それは、日本書紀の生田神社から日本一の酒どころ灘五郷という伝統文化をもちながら、時代によっては福原京への遷都を試みさせた中華文化、明治の開港以降はヨーロッパ文化を柔らかに取り入れ続けながら、そのどれかひとつに染まることなく様々な文化を共存させ続け、そしてどこか自由であり続ける「神戸」という街の姿と、どこか重なって映る。

越境し続け、その肉体におさめられた要素が多様なあまりに、見る人がそれぞれの「森山未來像」を描いてしまう、世界を舞台に活躍する表現者。そんな素敵な森山未來さんのルーツに、同じように多様で変わり続けるまち・神戸があるとしたら、神戸に縁をもった者として、なんだかとっても誇らしいな、と感じました。

森山未來さん、ありがとうございました!
(ちなみに、取材時に堀江さんが着ていたのは、森山未來さんの思い出の舞台、劇団☆新感線『五右衛門ロック』のサイン入りTシャツでした。でも言わない……)

【やさい食堂 堀江座】
営業時間:12:00~16:00、17:30~20:30
定休日:日曜日(日曜日は起こサンデー)
住所:神戸市中央区元町通6-3-3(阪神電車「西元町」駅から106m)
メニュー:やさいたっぷりカレー 800円(税込)ほか
※現在はテイクアウトのみで営業

森山未來
もりやま・みらい

1984年、神戸市出身。ドラマ『WATER BOYS』、映画『世界の中心で、愛をさけぶ』を皮切りに、数々の人気作品に出演、映画各賞を受賞。2013年には文化庁文化交流使としてイスラエルのテルアビブに1年間滞在、ヨーロッパ各地で活動。最近の代表作にNHK大河ドラマ『いだてん』、日本・カザフスタン合作映画『オルジャスの白い馬』、監督作品『Delivery Health』、映画『UNDERDOG』(11月27日公開)等。
阪神・淡路大震災15年特集ドラマ『その街のこども』、兵庫県政150周年記念番組『最果タヒ×森山未來 ことばおどる』等、兵庫県や神戸市の歴史にかかわる作品にも主演。
https://www.miraimoriyama.com/


<お知らせ>

森山未來さん主演舞台
2020年10月27日(火)~ 29日(木)
あましんアルカイックホール・オクト(尼崎市)

『見えない / 見える ことについての考察』
「私たちは見えなくなったんじゃない。もともと見えてなかったのよ」
ゆらぐ残像(ポストイメージ)、響き合う声、
森山未來が誘う「ほんとうに見ること」とは。
声と残像、そして森山未來の身体によるパフォーマンス。
https://mienai-mieru.srptokyo.com/index.html

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