県公式・兵庫五国連邦プロジェクト

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【TSUNA5|vol.001】JICO(日本精機宝石工業)編

tsuna5 LOVERSが語る、“五国のつなぎ”

全国的に地域産業の後継者不足や、移住による継業などが話題になるなか、

兵庫五国には古き良き〈技・カルチャー・想い〉を現代につなぎ、


見事に昇華させたコンテンツが実はまだまだ潜んでいる。


それらを愛してやまないLOVERSの声から、


“つなぎ”の裏に隠された多面的な魅力を紐解いてみよう。

縫い針から、レコード針へ。
時代と世界を、音で“つなぐ”。
JICO(日本精機宝石工業) 【但馬・新温泉町】

縫い針から蓄音機の針、そして世界中が賞賛するレコード針へ。
新温泉町が生んだJICOの職人スピリット

【ABOUT】
「1本でも注文がある限り、レコード針をつくり続ける」

兵庫県美方郡新温泉町。大阪、神戸といった都市部から約200km離れた日本海に面した静かな町に、世界の約200の国・地域にファンを持つレコード針メーカーJICO(日本精機宝石工業)の本社/工場がある。製造できるレコード針は2000種類以上と、世界中のメーカーを見渡しても類を見ない数だ。それを可能にしているのが、ひとつひとつの商品を職人が手仕事でつくりあげるJICOならではの製造姿勢。

JICOの歴史をたどると、はじまりは明治。なんと、”縫い針"を創業する工場として創業。〈縫い針〉→〈蓄音機用鋼鉄針〉→〈レコード針〉→〈工業用ダイヤモンド製品、オーディオ・ビジュアル関係の製品など〉
と、カタチを変えながら技術を“つないで”いる。

製造物が多岐にわたる現在でも、主力は1966年から開始したレコード針の生産。CDの登場によってレコードが下火になった時でも「1本でも注文がある限り、つくり続ける」との方針を守り、いまやアナログレコードを愛する世界中の人々にとってなくてはならない存在になった。

LOVERS’ VOICE

音をつくり出すDJからの視点
「アーティストにとって必要不可欠な針」

Turntable Troopers ENT. 代表取締役/DJ/プロデューサー
DJ $HINさん

レコードを深く愛するジャズ喫茶からの視点
「オリジナル針より艶がある音を奏でてくれる」

ジャズ喫茶jam jam 店主
池之上 義人さん

音楽文化を伝承する販売店からの視点
「新温泉町を訪れ感じた“ワールドクラス”」

オタイオーディオ株式会社 代表取締役社長
井上揚介さん

音をつくり出すDJからの視点
「アーティストにとって必要不可欠な針」

Turntable Troopers ENT. 代表取締役/DJ/プロデューサー DJ $HINさん

一流のDJ/トラックメイカーが信頼を寄せる針

DJ、トラックメイカーとしての活動、自身のレーベルでのリリース活動、DJスクールや音楽専門学校での若手育成やプロデュース、さらにはDJコンテストの主催と、幅広い活躍で日本のDJ界を牽引するDJ $HINさん。(以下、$HINさん)さまざまなアーティスト活動で、JICOの針との接点があるといいます。

「JICOさんは非常に多くの種類の針を製造されていますよね。だから、場面ごとの目的に合った針が見つかります。例えば、クラブなどで行うDJ活動。クラブDJ(クラブなどでオーディエンスに音楽を提供するDJ)は日々多くのレコード針を消費するため、メーカー純正の針よりも安価な交換針の存在はありがたいです。JICOさんはあらゆるレコード針メーカーの交換針をリーズナブルかつ高い品質で製造しているから、DJの強い味方です」

また、トラックメイカーとしてHIPHOPの楽曲を製作する際にもJICOの針は役立っているという。

「HIPHOPでは、既存曲や音源の一部分を流用し、再構築することで新たな楽曲をつくる“サンプリング”という手法がありますが、“サンプリング”で大切になるのは元の音源をいかに高音質で抽出できるかということです。その際に重要な役割を果たすのがレコード針。JICOさんの針は高音質なだけでなく、種類が豊富なので幅広い音域に対応することができ、曲の特徴ごとにチョイスできるのがいいですね」

「結構使えるやん!」交換針の期待値を超えた

「今思い返せば、JICOの針は20年前には使いはじめていました。でも、その頃には“ただの交換針”としか認識していなくて、メーカー名さえも知らなかった。でも“交換針も意外にいい音出るな”と思っていた気はします」

企業名すら知らなかった$HINさんがJICOを意識するようになったのは、レコード針メーカーSHURE社がオリジナル針の製造を中止した頃だ。DJや音楽関係者の間で高い支持を得ていたSHURE社のレコード針が廃盤になるのはショッキングな出来事だった。しかし、そのSHURE社の交換針をJICOが製造し続けるということで、多くのDJや音楽関係者、レコードファンは胸をなでおろしたのだ。

「正直、交換針はあくまでも“純正品の替わり”で、品質は期待できないものというイメージがありました。でも、いざ使いはじめたら“結構、使えるやん!”と驚きました。音質、耐久性も申し分なくて、交換針のイメージが変わりました」

商品開発を通じて触れた職人魂

その後、ポータブルレコードプレーヤーのコレクターだった$HINさんは、ポータブルレコードの針も扱うJICOと直接関わりを持つようになった。

「実際にJICOの方と関わってみると、情熱を持ってレコード針に向き合っていることが伝わってきた。企業としての人となりを知ると、ますますJICOの針への信頼度が上がっていきました。JICOの方々も、私が行っているDJ文化を盛り上げるイベントなどに理解をしてくださり、支援してくださるようになりました」

そのような交流が縁をつなぎ、JICOの商品開発にも携わるようになった。発売前の試作品を$HINさんが使用して、感想や意見を伝えるのだという。

「私が指摘したポイントにすぐ対応して改善した試作品を送ってくれたり、簡単にはいかないことでも諦めずに試行錯誤されたり。無限にあるパーツ、素材、ゴム、それらの堅さなど、些細な違いで音に変化が生まれる非常に繊細な調整作業を、ひとつひとつ丁寧に行う職人魂にはいつも頭が下がります」

「ぜひオリジナル商品を!」完成したMORITAに驚き

「JICOを知れば知るほど、これだけの技術があるのだから交換針だけをつくっていてはもったいないと感じるようになりました。会うたびに“オリジナル商品をつくった方がいい!”と言っていたほどです(笑)内外からそのような声があがるようになったのか、ついにオリジナル商品を開発されました。それも、世界初のレコード針です!」

それが、世界初カンチレバーに木材を使用したレコード針「MORITA~Wood Carving Cantilever~黒柿」だ。カンチレバーとは日本語では片持ち梁(かたもちばり)といい、水泳プールにある飛込み板のような構造の総称。レコード針においては、材質、サスペンション性能、形状などによって音質に変化をもたらすものだ。従来の素材は金属製が主流だが本商品は黒柿の天然木を採用しているこの商品は、従来商品にはない艶やかな音がレコード愛好家に好評だ。

「そもそも木のカンチレバーなんて聞いたことがないからどんな音が鳴るのか想像もつかなかったけれど、はじめて聴いたとき、衝撃でした。今まで数多くの針を試してきた中で、一番びっくりした音。高音の抜けが良く、音の輪郭がはっきりしていて、あたたかみがあり、ふくよか……。これらの言葉でも言い尽くせない、はじめて聴いた音でした。以来、作曲の際のサンプリングも、大切なレコードの音を保存しておくときにも、“MORITA”を使用することが増えました」

日本にこんなすごい会社があることを知ってほしい

オリジナル商品を開発したJICOに$HINさんが寄せる期待は大きい。

「実は、JICOという名を知った当時、日本の会社だとは思っていませんでした。それが日本の、しかも僕が活動する大阪と同じ近畿圏でつくっていると聞いて驚き、うれしくなりました。SHURE社の交換針の存在で広く知られるようになったとはいえ、まだまだJICOは知る人ぞ知る存在。MADE IN JAPANの技術力を持ったすごい会社があるんだよ!すごい職人さんがいるんだよ!ということをもっと多くの人に知ってほしいです。だからこそ、もっともっとオリジナル商品を開発してほしいですね」

そのための協力は惜しまない、と$HINさんは笑顔で語ってくれた。

レコードを深く愛するジャズ喫茶からの視点
「オリジナル針より艶がある音を奏でてくれる」

ジャズ喫茶jam jam 店主 池之上 義人さん

音にこだわりを持つマスターが使い込む針

マスターやスタッフが選び抜いたジャズの大音量サウンドが店内を満たす神戸・元町のジャズ喫茶jam jam。音を聴くだけでなく全身に音を浴びてほしいという思いから、会話厳禁の「リスニング席」が店の半分を占めるほど、マスタ-の池之上義人さんには音へのこだわりがある。

「旋律だけでなく、演奏者がブレスをとる音、ベースの弦をぐっと抑えたときに出る音など、ジャズにまつわるあらゆる音を感じてほしいと思っています。新しい曲はもちろん、お客様が自宅で聴いたことがある曲であっても、jam jamで聴くと新しい発見ができるような空間を目指しています。そのためには、やはりレコード針の存在は大切です」

そんな池之上さんが愛用するのが、JICOの針だ。

歴史ある店で、25年の付き合い

JICOの針は、阪神淡路大震災を乗り越え場所を移し再オープンし、のべ35年以上の歴史を持つこの店で、約25年間使われ続けてきたという。

「レコード針のメーカーSHURE社がオリジナル針を製造しなくなり、交換針を探していたときにJICOの針に出会いました。使用する前はオリジナル針でないため音質を心配していましたが、高域も低域も問題なく、なによりも音の伸びや艶は素晴らしく期待以上で……、それ以来25年間、フル稼働しています」

オリジナル針を超える艶、色気。そして品質

JICOの針は、オリジナル針に遜色がないどころか、聴き込めば聴き込むほどオリジナルを超える魅力を感じさせてくれるようになったという。

「レコード針の形状によって音の波形が違ってくるため、空気の震わせ方、スピーカーから出る音も違ってきます。これがCDとは違うレコードの面白さ。JICOの針は、その震わせ方に音の艶……、つまり音の色気を感じるんです。この色気はちょっとした差異から生まれるのですが、人間が耳で聴くと本能的に受け取る情報量はかなり多く、本能的に思わずニコッとさせてくれる艶、色気があるのがJICOの針が奏でる音なのです」

音の質だけではない。安定感がある品質もJICOの針ならではだという。

「レコードの針は消耗品なので徐々に劣化することは避けられません。2週間ほどたってくると音の波が変わってきて、特にうちのように大音量でかけると音の劣化が増幅されてしまいます。ところがJICOの針は、音の波が変わってきたとしても音の質が落ちることはなくて、安定感があるんです。ヨーロッパ製の替え針も試したことがあったのですが、その違いは明らかでした」

「どこの針使ってるの?」ジャズファンも気になる音

jam jamにはコアなジャズファンから、観光ついでにふらっと寄った一見さんまで幅広いお客さんがやってくる。
約5,000枚のレコードの中から、その日そのときの客層、人数、オーダーされた飲み物などに合わせて池之上さんらが自在に選曲し、お客さんはその音に浸る。

「“今の曲、何?”と聞かれることはもちろん多いのですが、“どの針使ってるの?”と尋ねられることもすごく多いんです。いい音がするから、と。JICOの針が奏でる音の違いは、やはり多くの人が気づくのだと思います。音は生き物だから、生きている人間と共鳴できる。知識量などに関係なく、本能で感じられるんですよね」

同じ兵庫県内にJICOがあることへの誇り

「レコードを引っ張り出して、ターンテーブルにのせる楽しさ。音の圧を感じる喜び。そんなアナログレコードへのこだわりを貫くことができているのは、質の高いレコード針をつくり続けてくれるJICOさんの存在があるから」

そう語る池之上さんは、最後にJICOがjam jamと同じ兵庫県内にあることへの思いを聞かせてくれた。

「私はこの小さな針ひとつに、日本の底力を感じるのです。同じ県内にそのような企業があることは、誇りです。同じ空気を共有しているんだなと思うとうれしいですよね。いつか表敬訪問してみたいなと思っています」

音楽文化を伝承する販売店からの視点
「新温泉町を訪れ感じた“ワールドクラス”」

オタイオーディオ株式会社 代表取締役社長 井上揚介さん

音楽文化継承の担い手である井上さんが惚れるJICO

DJ機材、アナログレコードの通信販売で日本最大級の出荷量を誇る「OTAIRECORD」や40年以上の歴史を持つハイエンドオーディオ機器販売店「OTAIAUDIO」、さらにはDJイベントの大会運営、DJや作曲家養成スクールの運営など音楽に関する幅広い事業を手がけ、音楽文化の継承に尽力するオタイオーディオ株式会社・代表取締役社長の井上揚介さん。「OTAIRECORD」および「OTAIAUDIO」でJICOの商品を取り扱うだけでなく、自身が運営するYouTubeチャンネル「オタレコTV」やブログでも、音楽を愛する顧客にJICOの商品やJICOというメーカーの存在を幾度となく紹介している。商品購入ページでは「絶対の自信があるのでご購入後納得がいかない場合は全て開封後の返品OK」という文字さえも並ぶ。それらは単なる「自社が取り扱う商品の紹介」という域を超えた情熱を帯びたコンテンツであり、井上さんのJICOへの絶対的な信頼が感じられる内容だ。

「音楽関係のメーカーの中でも5本の指に入るほどの“音楽文化遺産”だと思う」

「音楽を楽しむことができるのは、過去から継承されてきた豊かな音楽の文化があるからこそ。この仕事を生業にしている以上、それら“音楽文化遺産”ともいうべき音楽の豊かな文化を次の世代に伝承していくことが宿命だと思っています」

事業で得た利益を、音楽文化の情報発信によって還元するという姿勢を持つ井上さん。もちろん、すべての取り扱い商品やメーカーに等しく光を当てているわけではない。

「仕事柄、200~300社ほどの音楽関係のメーカーさんとの関わりがありますが、JICOさんはその中でも5本の指に入るほど、特別な会社だと思っています。JICOさんの存在は“音楽文化遺産”そのもの。だからこそ、お客さんや音楽を愛する人には知ってほしくて、発信しているんです」

音に、地域性、人間性が出ている

音楽の世界を知り尽くした井上さんがそこまでJICOに思い入れを持つのは、メーカーでは廃盤になったレコード針の交換針も含め多種多様なレコード針を製造していること、そのレコード針のクオリティが非常に高いことはもちろん、JICOの“地域性”、“人間性”にも惹かれたからだという。

「私は、音は地域性や人間性が出るものだと思うんです。JICOの針を使うと、のびやかな音がする。オリジナルのメーカーの針と遜色がないどころか、JICOの針だからこそ出せる音がある。新温泉町という場所でJICOの人々が真摯に製造していることが音に出ていると感じるのです」

「空気が違う」。新温泉町で目の当たりにした音と向き合う姿

実際に井上さんはJICOの姿を自身で確かめるため、JICOの自社工場がある新温泉町に足を運んでいる。大阪駅から車で3時間。車を降りた瞬間「空気が違う」と感じたのだという。

「新温泉町の澄んだ空気、海の匂い。余計な欲望や人の手が入り込みすぎていないこの土地が、レコード針という繊細なモノづくりを支えているのだと直感的に理解できました。資本主義の欲望が渦巻く都会から断絶されて、いい意味で時が止まっている。その点に、アナログレコードとの相性の良さを感じました。一本筋が通った迷いのない世界がそこにはありました」

土地からだけではない。そこで働く人々にも感銘を受けた。

「経営層の方々も、スタッフの方々も人柄があたたかいのはもちろんですが、それ以上に“邪気”がないんです。ひと儲けしてやろう、効率よく数をこなしてやろう、というような普通に生きていたら抱きがちな感情が一切見えない。一本糸がピンと張るように、無心で集中してモノづくりに真摯に向き合っている姿が美しく、印象的でした」

あえて拡大しすぎない。音楽文化を守るJICOの姿勢

事実、JICOのレコード針は受注生産で本数を絞り込んで製造している。世界にたぐいまれなる技術を認められているのに、派手なプロモーションも行わない。

「正直、もっと大きな声でアピールしてもいいんじゃないかと思うこともあります(笑)それぐらい、世界に胸を張れる技術を持っている企業だと思うので。それでも、脈々と静かに、ことさら事業に波を生み出さないこの姿勢があるから、永く歴史や文化を守っていくことができているのかもしれません。驚くほど控えめだけれど、技術は本物。JICOさんは間違いなくワールドクラスのメーカーさんだと思うのです」

JICOのレコードの針やそこから奏でられる“ワールドクラス”な音の文化は、新温泉町という“地域性”、そしてJICOで働く人々の“人間性”により生み出されているようだ。

日本精機宝石工業株式会社
[本社/工場]
〒669-6701 美方郡新温泉町芦屋100番
TEL:0796-82-3171(代表)
http://www.jico.co.jp

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