新型コロナ 私たちの記録 vol.002 兵庫県医務課 沖田謙吾「陽性患者をひとりも待たせていない、それを可能にしたのは‥」
取材日 2020年6月18日 /取材 兵庫県広報専門員 清水奈緒美
兵庫県に一人目の陽性患者が出てから約2週間が経った頃、それまで、新型コロナ関係では医療用マスクの確保にあたっていた医務課に大きな変化がありました。県内での陽性患者数が右肩上がりに増え(3月15日時点で累計78名)、このままでは病床が枯渇しかねないという状況になり、増えるコロナ患者に対応する医療体制を作る必要が発生。医務課が医療体制の確保を担当することになりました。
それまでの区域ごとに行っていた入院先探しでは追いつかない
「普段は、救急・災害医療体制や医療従事者の確保など広く医療に関わる業務をしていますが、感染症対策にはノウハウがないに等しかったんですけど、一刻も早く作らないとあかんという状況だったので、どんな体制が要るのか一日で考えました」。そう語るのは医務課の沖田副課長です。
「そもそも、『どこの病院が何床、コロナ患者さんを受け入れられるか』『患者が今どこに入院しているのか』、正確に全体像が把握されていなかったんです。入院先をあてがう保健所(健康福祉事務所)も、病院探しに苦労していました」。そこで、まず県内病院でコロナ対応できる病床等の情報を集約。それをもとに、ある保健所の管轄内で入院先がすぐに見つからないという場合、管轄外の入院先を紹介できる「兵庫県新型コロナウイルス入院コーディネートセンター(CCC-hyogo)」を開設することになりました。
区域の壁を取っ払うことで、今ある病床を有効に使う
「なぜ、こういう体制が必要だったかというと、それまでは尼崎総合医療センターとか加古川医療センターとか、重い患者さんを治療できる病院に軽い患者さんがいっぱい入院していて、重篤患者さんの行き場に困るという状況に‥そうなると、県民の命が救えない。患者さんを症状に適した病院に振り分けて入院してもらう必要があると考えました。もはや、各保健所だけで調整するより、オール兵庫で調整していかないといけなかったんです。発案の翌日には知事まで協議して、その次の日には、保健所長会にかけて、その次の日には本部会議に出して記者発表。4日間で構想をまとめる…バタバタでした」。そうして、CCC-hyogoは3月19日に開設しました。
センター内の様子。複数の部署から職員が集められ、日夜対応にあたる。
形ができて、はい、終わりではない。「仕事のやり方を決めていくのがさらに大変で」と沖田さんは続けます。日々の情報管理は、もともと医療現場で使用される「EMIS=広域災害救急医療情報システム」というものを活用していくことになり、システムへの入力を医療機関へ依頼。(ちなみに、兵庫県は阪神・淡路大震災の翌年にEMISを導入。全国に先駆けてのことだったそうです)。関係者に緊急で集まってもらい、情報集約は医務課が、患者さんの容態から、必要な医療のある入院先を判断するのは素人でできないため、入院のコーディネートは県立病院の看護師や保健師の方がすることになったそうです。実際のところ、その時にはすでにセンターを開設していたので、走り出しながら考えるというスケジュール感でした。
絡んだままの電話配線。突貫での開設だったことが伺える。
センターが目指すは、入院待ちゼロ
センターの真価はすぐに発揮されることとなります。「保健所からたくさんの調整依頼があり、多い日には十数件、すでに180件近く入院調整をしています。また、最初、神戸市は市立中央市民病院という砦があるので、市独自で対応するということだったんです。が、中央市民で院内感染が起こってしまった…。最近は、神戸市と連携を密にして、神戸市で入院調整できない分を県で調整しているんです。今のところ、胸張って言えるのは、『兵庫県は、陽性患者さんを野に放ってない』ということ。自宅療養や入院待ちが出てきている府県があるのも事実です。今、病床数がぎりぎりになってきたら、軽症患者さんを病院から連携の宿泊施設へ移送してもらったり、逆に重篤化した患者の転院調整をしたりしています。そうやって、患者さんを外で待たすことをしていない。それは一番の感染拡大防止になるし、県民の命を守ることにつながると思うんです」。“肝心の肝心”のところの速さに、責められる余地はない。
確保する病床数、兵庫は少ない?
センターの運営と同時に、病床の確保も進めてきたという。「コロナの患者さんは、病院側にとっては大きな負担なんです。コロナ専用に場所を区切るだけなら可能だという病院も、人工呼吸器とか酸素吸入器を追加せなあかんとか、防護服やフェイスシールドをしないといけないとかありますし、なかなか難しいなか、『軽い症状なら受け入れる』と言ってくれるところもありました」と沖田さん。この病床数に関しては、いろいろな意見があります。「他府県では、まだコロナの患者さんを受け入れることはできないものの、約束をとりつけた病床数の方を報道されているところもあります。兵庫県はCCC-hyogoで入院調整をしているので、“今、患者さんを受け入れることができる病床数”を発表しています。テレビや新聞ではその数を比較されるため、『兵庫県は少なすぎるのでは』とお叱りの意見も寄せられました」。
しかし、沖田さんは「コロナのための病床数をただたくさん稼げばいいのか」と問いかけます。「今、多く受け入れている病院以外に大きな病院は他にもありますが、そこではコロナに関与しないようにしてもらっているんです。なぜなら、救急の最後の砦だから。コロナで救急機能が弱まっている病院があるなら、別の病院の救急を生かしておく。通常の医療とのバランスをみながら病床を確保していって、で、確保した病床は適切に使うようにしていっています」。
◆
今回のコロナ関係の発表資料でも、“確保”や“整備”という言葉はよく出てきます。かくいう私も「確保、そうですか」と流し気味になっていました。目新しいワードでは決してない。だが、緊急事態にあって体制を整えるスピード、緊急度によって病床数を増やす柔軟性、目標数ではなく確実に入院できる数を発表する誠実さ。(また、水面下の働きを積極的にアピールしない謙虚さも…)。そういうもの全てを含んで、ひとりの取りこぼしもない確実な医療体制の“整備”に行きついています。そこの働きには、一県職員として私も遠慮なく誇りを持ってもよいのではないかと思うのです。