県公式・兵庫五国連邦プロジェクト

県公式・兵庫五国連邦プロジェクト
   

【勝手にエール|vol.002】“京都のカルチャー”の拠点に、行ってきました。

 

兵庫県に五国あり。関西に2府3県あり(※兵庫県のぞく)。
兵庫五国が、それぞれ、関西5府県に
勝手にラブレターをしたためる。
そんなプロジェクト「勝手にエール!」の相手先を、
兵庫県広報官の湯川カナが訪れます。

文:湯川カナ(兵庫県広報官)

第2弾は、丹波からのラブレターをお届けした、京都。
哲学やカルチャーの拠点、京都大学近くの有名書店”恵文社 一乗寺店”さんです!
英国紙で日本から唯一、「世界でもっとも美しい本屋ベスト10」に選ばれたお店。
迎えてくださったのは、20代にしてマネージャーの鎌田裕樹さん。
案内されたのは、美しい店内の、突き当りのドアを開けたその向こう側……

湯川:えっ、中庭ですか?

鎌田さん:おもしろいでしょう? 中庭がある書店、僕は、他には知らないです。1975年に創業した歴史のある店ですが、こういう余白もあって、書店を中心に、生活用品を揃えた「生活館」、ギャラリー「アンフェール」を併設しています。今日、取材の場所として用意したのはイベントスペースの「COTTAGE」です。どうぞ。


アンティークな木の椅子に囲まれ、中庭からのやわらかな陽光がこぼれる空間で、鎌田さんへのインタビューは始まりました。
 

 

【いわば、生態系がある感覚。】

湯川:私、京都は良く知らないのですが、こういう”文化度”みたいなのとか、あと鎌田さんの佇まいが、なんていうか、京都っぽいですよね。

鎌田さん:いや、僕、千葉県出身なんです(笑)

湯川:え。

鎌田さん:森鴎外の『高瀬舟』が好きだったりして、大学に進むとき京都に行きたいと思って、実際に京都に行ったこともないのに受験して……。なので、すべてが驚きでした。

 このあたりは大学がものすごく多くて、京都大学、京都工芸繊維大学、京都造形芸術大学、京都精華大学、そして僕が通っていた同志社大学も近いです。学生も研究職も多いし、僕のように、地方から来て地元に戻らずここに住み続ける人も多い。

 そのせいか、河原で寝っ転がって本を読んでいるひとがいたり、近所のカフェや飲み屋でも、さきほど湯川さんが言われた”文化度が高い”ようなことを感じることは多いですね。ふらっと入った蕎麦屋の店主がふつうにランボーの詩集を読んでいたこともありました。

湯川:ふつうに。
  

 

 

鎌田さん:はい。たとえばこの一乗寺界隈は”ラーメン屋と本屋の街”と言われることも多くて、本屋といっても、うちみたいなセレクトの店もあれば、一般書店もあり、個人の古書店もあります。どのお店も、自分の店だけがあればいい、という考えではないと思うんですね。

 京都は、とくにこの左京区は、同業だけじゃなくて、隣に喫茶店があり、気の利いたお花屋さんがあり、古道具店があり、そして商店街に映画館もできたりしています。一見ふつうに見えるレンタルビデオショップでも、監督名別で作品を並べていたりしている。地域全体として、やっぱり、文化度というかカルチャー愛が強いんですよね。

こういうことって、お店の方も、お客様の方も、「そういうのが好きなひと」がいないと成り立たないと思うんです。例えば、僕の場合も本屋だから本を読むのではなくて、当たり前に本を読む習慣をもともと持っていた。「仕事だからやっている」というより、ふつうのひとが、当たり前にそれぞれ文化の担い手になり、そして県外からもそうした風土、空気に触れようとして訪れるひとも多いなと感じます。

 

 
湯川:とはいえ、書店同士ってライバルじゃないですか? しかも、電子書籍とかも普及していって、存続の危機も囁かれている業界ですし。あっ、すみません。

鎌田さん:いや、その通りです(笑) あの、京都って、うちの他にも、ホホホ座さんや誠光社さんなんかの個性的な書店や映画館、喫茶店やライブハウスが、「文化の発信地」みたいに、それぞれの地域にあるんですよね。それぞれが「なわばり」のようなものを作りつつ、いい感じの距離を保って共存している。いわば、「生態系」がある感覚です。

 京都の特徴としては、お互いの店やエリアが、意外と近いということもあります。遠い場所にあるイメージの一乗寺からでも、街中まで15分程度で行けちゃう。だから、他の店が取り組んでいることは見えていて、お互いに何をしているかはわかっている。ライバルでありながら、共存はしていて、とはいえ、べったりした味方という感じもしない。そんな距離や感覚が、京都の住みやすさのひとつなのかなと思います。

 
 

【そんなに無理して本を読まなくていい。】

 

湯川:ところで私、いま待っている間にお隣の「生活館」でウィリアム・モリスのレターブックを見ていたら、さりげなーく隣にモリスの本が置いてあって、思わず手に取って開いてみたら面白くって、つい買っちゃったんですが……。

鎌田さん: フフ、意地悪いでしょ?

湯川:やられました(笑) なんでしょうね、店内を拝見していて思っていたのですが、浮ついていないというか。もちろん美麗な本もあり、本好きのピンポイントをつくたまらない本もあり、うっとり溜め息が漏れるラインナップがあり。でもそういう本が「並べてある」書店が多いなかで、恵文社さんは、地に足がついている雰囲気というか……。あ、そういえば恵文社さんのコンセプトって、「本にまつわるあれこれのセレクトショップ」でしたね。本屋、ではない!

鎌田さん: なんかね、そんなに無理して本を読まなくていいと思うんですよ。って、本屋の僕が言うのもなんですが(笑) 自分の必要に応じて、あるいは自分の機微に触れたときにしか読まない、そんな読み方でいいんじゃないかと。

 書店の業界にいるひと、同業と集まるといつも利益率の話になって、現在の〇%だと立ち行かないから〇%に上げてもらわないと……とか不毛な議論になるんですけど、いや、その前に、自分たちは本屋として生き残るためにやれるだけのことをやったのか? 本屋としての可能性をやり尽くしたのか? と思ってしまうんですよね。

  

 

鎌田さん: 本屋だけでできること、出てくる発想の限界を感じていたこともあって、去年、デザイナーや編集者、香水のプロや大工など異業種の若手があつまった「混ぜるな危険」という有志の企画チームをつくったんです。そのチームで初めて企画したのが「読香文庫(どっこうぶんこ)」という、香りで本を選ぶプロジェクトです。

 まず僕が本屋として小説を5つ選書して、他のメンバーと作品を読み解いてキーワードに落とし込みます。そのキーワードをもとに、それぞれ5つの香水を東山にある香水専門ショップの「LE SILLAGE」さんがセレクトして、白紙の文庫本に香りをつける。お客様が「この匂いが好き」と本を選んでレジに持ってくると、5種類の小説のどれかの本が渡される。お客さんは買うまで何の本かはわからない。本にも、主人公がまとっている香水をイメージしたり、印象的なシーンから、作品の内容に対応した匂いがついています。内容と一緒に、嗅覚で読書を楽しんでいただく実験的な提案です。

 あの、一般的に、本って高尚なものと思われすぎだと感じていて。でもそうじゃなくて、もっと個人の生活に紐づいてないといけない、と個人的には思っています。

 
 

【マネージャー、だけど、アルバイト。】

湯川:個人の生活に紐づく、というのは?

鎌田さん: たとえば僕自身も、本屋である以前に、ひとりの生活があります。当然、本も読みますが、音楽を聴く、映画を観る、ごはんを作る、食べる。それらすべてのことも、いわば広い意味での「はたらくこと」のなかにある。

 本って、それぞれの人の生活に寄り添うものだと思うので、やっぱりお客様に薦めるためには自分自身の経験が必要になります。育児の本も、僕にはこどもはいませんが、姉のこどもたちを間近で見てきたから、こどもを育てるうえで「綺麗事じゃ片付けられない」ところも想像がつく、だから現役で育児中の方に寄り添う本を、無理なく薦めることができると思っています。

 なので、気の利いたお店に行ったり、たとえば背伸びをしてバーに行った時も、バーテンダーの素晴らしいサービスを見て感銘を受けることが大事で、そこからバー、お酒、サービス……と関心が拡がっていく。そうやって、自分の人生や暮らしの延長に仕事があること、実感と喜びをもって「より良く生きたいと、はたらくこと」のすべてが、とても大切だと思うんですよね。

 

 

湯川:なるほどー。じゃあいま、お仕事はすごく楽しいですか?

鎌田さん: いや、それがですね(笑) 大好きな本を仕事にしてしまったからこそ、ある意味退路がないですし、そして僕はいま28歳なのですが、24歳から、この歴史もありファンも多い書店のマネージャーになってしまって。もともと書店員というのはこうあるべきだ、という美学も自分の中にあって、色々と雁字(がんじ)搦めになって、去年まではずっと苛々していました。

 それで、昨年末に「もう、働き方を変えよう」と思って、マネージャーだけど志願してバイトにしてもらったんです。

湯川:え? あの、マネージャーが、アルバイト扱い、ということですか???

鎌田さん:はい。あくまで雇用形態を変えてもらったということではありますが。それまでマネージャー職で週5日、週によってはそれ以上パンパンに働いていて、その状況では興味がある人に誘われて飲みに行ったり、それこそ本を読んだりできなくなっていたんです。なので、お金は今はいらないので、時間と自由をください、と会社に提案しました。

 まだ若いはずなのに、どんどん世界が狭くなっている状況に気づいて怖くなったというか、そもそも何がしたいんだっけと思ってから、実際に動くまでは早かったですね。同じ会社のチームには迷惑を欠けている部分もあるので、申し訳ない気持ちもありますが、恵文社のような発信をしていかなければならない店舗には、ひとり、こういう”フリーマン”がいると都合の良いこともあります。

 

 

鎌田さん: それから、社員で働いていた時よりも、社外の仕事も増えて、むしろまったく暇はなくなりましたが、なぜか楽しいんですよね。時間はないけど、これまで以上に本を読むようにもなりました。キッチンでスープを煮込んでいる合間とか、信号待ちの時間、隙間をみつけて貪るように本に触っています。

 「仕事」として読むのではなくて、自分が「よりよく生きる」ために本を読み、働いているという感覚が研ぎ澄まされていって、そのひとつのツールとして本が重要になってるというイメージです。

 もっというと、情報に触れるのは、本じゃなくてもいいんですよね。映画でも、バーでも、人に会うことでも。いまはその時間と自由ができたので、誘われたらできるだけいろんなところに足を運びます。なぜか本屋の友だちだけは少ないんですが(笑) あ、そういえば、今日もまったく本の話をしてないですけど、大丈夫でしょうか?

 
 

【兵庫県、とっても羨ましい。】

鎌田さん: (兵庫五国連邦ポスターを見て)おもしろいですね。ちょうど、デカルトが哲学に数学を持ちこんで近代哲学が始まったと言われ、それがカントでいったん収斂して、その後、19世紀にショーペンハウエルが実存主義の扉を開く……みたいな、時系列にもちょうど沿っていますしね。いや、僕はぜんぜん詳しくないので、適当ですけど。

 

 

鎌田さん:  (ポスターを読みながら)黒豆も、それをつくるのが目的じゃないんですよね、きっと。結果として、コミュニケーションのツールなのかな、と思います。「より良く生きる」ためにはたらくこと、つまり、自分が本屋を仕事のひとつとしていることと、同じようなところがあるのかな、と思いました。

湯川: 鎌田さんは、兵庫県に来られることって、あります?

鎌田さん: あー、それはもう、旅行するときには、まず思いますね。僕は温泉が好きなので、「今回は有馬行こう」「よし、城崎行こう」って。

湯川: 「そうだ、兵庫県行こう」ではなくて?

鎌田さん: そっか。そう言われるとそうですね。有馬、城崎と、その土地土地で見ています。それぞれの場所に、それぞれ美味しいものがあり、素敵な景色があり、そこの暮らしがあり、人がいる。

 先ほど、「京都は、生態系のようなものがある」と言いましたけど、兵庫県は全体がそういう固有の文化をもつナワバリがいくつもある生態系になっていますよね。それは京都以上で、とっても羨ましいところがあります。

湯川: わ、そう言っていただけると、やっぱり嬉しいです! ぜひ近いうちに、兵庫県に遊びに来てくださいね。

鎌田さん: はい、ぜひ。バイトなので、わりと時間、自由ですから(笑)

 

 
 

【「より良く生きたいと、はたらくこと」のすべて。 】

豊かさ、というべきものが、恵文社さんには優しく溢れていました。インタビューをさせていただいたイベントスペースの、心地よいアンティークの家具。ジャンルごとに担当を決めず、自分が挿した本が明日は誰かに抜かれていることもあるという、アノニマスな書棚。ひとつひとつが暮らしの輪郭をくっきりと強くしてくれそうな雑貨。「どうせ朝食べてへんやろ」と会計のときにサンドウィッチを差し入れてくれる常連さん。

生態系として「生きたまち」をつくる中心にあるのは、こういう、誰かが設計してできるものではない、そこに関わるひとやものすべてが織りなす、”えもいわれぬ”カルチャーなんだなぁ。

おもしろいのは、そんな京都の生態系のひとつの核のど真ん中にいるのが、千葉県からやってきた青年だということ。タンポポの綿毛のようにふわっとその土地にやって来て、素敵な先達と出会い、「ここ、どうぞ」と用意された場所から「生活」をたててゆく。

無理なく、「いま・ここ」の存在すべてを肯定するような、豊かな世界観をつくっている恵文社さん。時期によって変わりゆく書棚のなかで、ひとつ、真ん中から少し外れたところに、哲学者・鶴見俊輔さんのコーナーがありました。しかも、氏の著作だけでなく、その没後に様々な方が鶴見俊輔さんを語るシリーズなど、初めて見た本がいっぱい。

 

 

「このコーナーだけは、常設なんです」と、鎌田さん。

東京からやってきて京都大学・同志社大学で教鞭を執り、京都に居を構えて知の拠り所となられた鶴見俊輔さん。そして千葉からやってきて、有名書店の店長職を任されながらアルバイトになりつつ、ひょうひょうと新しい時代のカルチャーとコミュニティをつくっている鎌田さん。おふたりの姿が、一瞬、重なって見えました。

「実感と喜びをもって『より良く生きたいと、はたらくこと』のすべてが、とても大切だと思うんですよね」
これって、日常の暮らしのなかで思想を実践することを一貫して大切にしてきた鶴見俊輔さんの言葉にも聞こえるし、古(いにしえ)からの諸行無常のなかで、文化としか言いようのない、美しくあたたかなものを育んできた京都という土地の言葉にも聞こえる。

どの土地にも、より良く生きたいと思い、日々はたらく人がいて、そのつながりのなかでいつしか織りなされていた文化があって、そこに暮らすひとたちを優しく支えているのだろうな。きっと、すべての場所で。

 

 

 ・  ・  ・

【恵文社 一乗寺店】
所在地:京都市左京区一乗寺払殿町10
営業日: 年中無休(元日を除く)
営業時間: 10:00 – 21:00(年末年始を除く)
電話: 075-711-5919


ポスター掲示希望施設を受け付けます!

U5H(兵庫五国連邦)は、たくさんの方に、「あるある」でふるさとを語り合っていただくきっかけをつくるプロジェクトです。
学校や職場、喫茶店や居酒屋、商店街、公民館、いろんな商店……。
ポスターをご希望の方がいらっしゃいましたら、不特定多数の方の目に触れる場所に貼っていただける方に限り、喜んで分けさせていただきます!

以下の項目をご記入のうえ、U5Hウェブサイトの問い合わせフォームhttps://u5h.jp/contact)からお送りください。

(1)ご希望のお渡し方法
● 郵送(着払いによる発送…県内約1,400円)
● 県庁にて直接受け取り(事前に来庁時間をお知らせください……無料)

(2)ご希望のポスター
● 掲示予定場所
● 種類(各国それぞれの指定、または五国すべて)
● サイズ(B1、B2、A3)
● 枚数(※最大5枚まで)

(3)ご連絡先について
● お名前
● ご住所
● お電話番号
● メールアドレス

あなたの「ふるさとあるある」投稿求ム。 あなたの「ふるさとあるある」投稿求ム。