Vol.02【淡路物語】-大阪-
学問の神様の大きなミステイク。
第2弾は、阪急梅田から特急で2駅のところにある淡路駅です。
兵庫・淡路島と大阪・淡路のあいだには、何が?
湯川によるレポートをどうぞ。
「僕、淡路に住んでるんですけど。『淡路から来た』って言うと、だいたい淡路島と勘違いされるんです」
マル―ン色、といわれる阪急電車。
その大動脈である京都線と、ベッドタウンや関西大学などにつながる千里線が交わるのが、淡路駅。
さらに2019年3月には、駅から300mのところに、JR淡路駅が開業。
阪急梅田から特急2駅、さらにJR新大阪駅からでも2駅で、私たちはこの淡路(大阪市東淀川区)に降り立つことができる。
阪急淡路駅。二本並んだホームに電車が滑り込むと、さほど広くないホームに一気に人が溢れ、川の流れのように地下の通路に吸い込まれていく。
その渦に巻かれながら階段を降りていくと、いきなり目の前に現れた。淡路ポスター4連貼り。
さっそく、足を止めて食い入るようにポスターを見ている青年が。
あ、はい、僕、淡路に住んでるんですけど。『淡路から来た』って言うと、だいたい淡路島と勘違いされるんです。
なので、ついに『ここは淡路島ではありません』ってポスターが貼られたんだと思ったら、違うんですね……淡路駅で出会った青年
すまない。 We’re from Hyogo。勘違いを上塗りさせるようなことをしてしまいました。ごめんなさい。
地下を通って反対側のホームに行くと、頭上、片側3面×裏表=6面ポスタージャック。淡路駅を利用するみなさまの頭上に、淡路島、淡路島、淡路島。
果たしてこのジャック、地域の方々に幸せになっていただけるものだったのか……。
否応なく込み上げる大きな迷いとともに、駅を出ると、改札を背に淡路本町商店街へ行ってみた。
「小学校で、『なぜここを淡路というのか』を習いました。菅原道真公がね……」
駅前近くに、「もりえん」というお茶屋さんがあり、店の前に「煎りたてコーヒー豆」の幟がはためいている。ん? 奥を覗くと、「喫茶室はら」の看板が。
ドアの先には、昭和レトロな喫茶店。メニューは、コーヒー、紅茶、冷やし飴、甘酒。抹茶や玉露や煎茶はお菓子つき。
水屋にお茶を点てるセットと、壁に誰かお茶の先生の写真が飾ってある。
「あ、これ、私ですわ。表千家」 指さしたのは、オーナーの原さん。もうここで50年も商売をされているということで、お話を伺うことにした。
18の時に宮崎から出てきて、もう何年? 60年かそこらかな。
淡路の駅の由来、私、詳しうはよう知りませんけど、なんでも菅原道真さんが淡路島と勘違いしたという謂われがあるらしいな。
その頃は私、産まれてないから、それ以上はようわからん(笑)この話やったら、モリカワさんが詳しいんやけどな。呼んできましょか?
そこの銭湯の。この夏も、淡路島のモノ売ったりしてましたわ、モリカワさん。連れてきましょか? え、行く? そう? ほな案内しますわ。はら喫茶室オーナー 原さん
ひょいっとキャップを頭にのせた原オーナーと、私と兵庫県職員Nさんは、はらコーヒーを後にした。
隣の不動産屋さんの角から横道に入ると、左手に八百屋さん。右手にこれまたレトロな銭湯「昭和湯」(あ、銭湯!)。
その隣、mokumokuという暖簾がかかる長屋か町家の木の引き戸を、原さんがガラガラと開ける。ここまで、130歩程度。
古くて暖かな調度の家具が並ぶ店の内から、どう考えても憎めない男性が現れた。あ、思ったより若い!
彼が、2016年にオープンしたゲストハウス木雲mokumokuオーナー、森川真嗣さん。
父が隣の銭湯やりながら町づくりのことに関わってたんで、自分もやれたらなってずっと思っていて。
兄が銭湯を継いだので、隣を、宿泊したら銭湯も利用いただける風呂付きゲストハウスにして淡路を楽しんでもらうのも良いかな、と。
ただ、たまにいらっしゃいますよ。「予約した〇〇ですが、淡路に着いたら、ナビであと3時間って言われて。ひょっとして、淡路島じゃないんですか?」ってお客様。というわけで、僕はここの出身なんですけど、小学校の時、「なぜ淡路というのか」っていう地名の由来を習いました。社会かなんかで。
菅原道真公が、京都から大宰府に島流しされる途中、舟でこのあたりに上陸して「ここが淡路島かな」と勘違いしたので、「淡路」になったらしいです。
あ、たしかに! コロンブスが、アメリカを発見した時にインドと勘違いして「インディアン」と名前つけたのと同じですね(笑)東淀川区って、一部吹田市に入るところも含めて、淀川と神崎川にはさまれた間なんですけど。このエリア、菅原道真公にまつわる地名が多いんですよ。
その名も「菅原」という地名とか、あとは御旅町、とか。
だからかな、土地的には、「太閤さん」より「菅公さん」の方が、なんとなく親近感ありますね。もちろんここも大阪なんですが。ゲストハウス木雲mokumokuオーナー 森川真嗣さん
「淡路」の由来は、「学問の神様」の、かなり大きなミステイクだった。入試落ちるやつだ。
しかし、それがそのまま地名になっているとは。
ひょっとしたら「実は、勘違いされたことすら、みんな嬉しかった」くらい、菅原道真公が慕われていたということなのだろうか。
あるいは、慕われていたのは、淡路島?
ある青年は勘違いされて困り、別の青年はその島とつながりたいと思い。
ここの淡路って、特別な名所とかってないんですよ。
でも淡路島は特産品だらけでしょ? なので、それを一切合切もらえたらな、と(笑)
たとえば、この淡路の商店街に来れば、淡路島の特産品がいつでも手に入るようになったらいいなと願っていて。それで僕、それこそ10年前くらいから、「路・淡路」(theアワジ)と名付けたりして、交流を進めようとしてきたんです。
それでこの夏に、ようやく、淡路島のものをここで買えるイベントもできたりして。
地産地消ならぬ、路産路消、かな? 淡路島のものを淡路で消費する。
そんなのも、よくありません?ゲストハウス木雲mokumokuオーナー 森川真嗣さん
すごい。
最初は1100年ちょっと前、菅原道真公が「うっかり勘違い」しただけだった。
それが、現代になって、「名前が同じ」というだけで、最近橋でつながったばかりの瀬戸内海の島との縁を、結んでしまった。
ある青年は勘違いされて困り、別の青年はその島とつながりたいと思い。
「君ノ名ハ、淡路」。それは学問の神様が残してくれた、双方への置き土産なのかもしれない。
ちなみに東淀川区淡路は、「フエラムネ」などで有名なコリスガムの拠点。
淡路島が、同じくこどもに人気の「吹き戻し」(別名:ピロピロ)の一大産地であることと、これも縁を感じないこともない。
「淡路駅前に、『淡路島まで70km』とかの看板置いてもいいかもしれないですね」
鉄道のない淡路島。
でも「淡路駅」とは、古く、そしてそこはかとなく、つながっていたのだった。
■ご協力いただいたみなさま
▶お茶の淡路もりえん 喫茶室はら
大阪市東淀川区淡路4-12-13
原哲朗さん
▶銭湯つきゲストハウス木雲(もくもく)
大阪市東淀川区淡路4丁目33−3
森川真嗣さん